コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.08.25

読み物

パンくずリストと夢のコンテナハウス、迷わない家

モジュールと自由のあいだ、旅するようなコンテナハウス──森と海と都市をめぐり、そして研究所へ

■ 森の入口で

「パンくずリスト」という言葉を初めて聞いたとき、
私はすぐにグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』の森を思い浮かべた。

迷子にならないように落とされた小さなパンくず。
それは儚くも確かな“帰り道”の印だった。

現代のウェブ世界では、
「ホーム > コンテンツ > コンテナ > 店舗設計 > あなたの夢」
と表示される無機質な機能。
けれど私にとって、その言葉にはいつも“帰る”という郷愁が伴う。

そしてある日気づいた。
コンテナハウスもまた、人生のパンくずリストに似ている。
迷わないための印であり、未来を導く道しるべなのだ。

■ 海辺のコンテナ──帰る場所の原風景 

太平洋を臨む岬に、新造コンテナを据えた。
窓を大きく切り取り、防錆塗装を施し、潮風に耐える工夫を凝らす。

完成したのは小さな別荘。
波音に包まれながら眠り、朝は潮風の香りで目を覚ます。

「ここに帰ってきたい」と思える原風景が生まれた瞬間だった。
まるで落としたパンくずを拾い集めて、
辿り着いた夢の帰還点のように。

■ 都市の狭小地に積み上げた実験

別の日、私は都市の狭小地で挑んだ。
わずか12坪の土地に、新造コンテナを縦に積み上げる。

1階はショールーム。
2階は小さなオフィス。
そして屋上は都市の空を仰ぐテラス。

都市の隙間に立ち上がったその家は、
「限界」を打ち破る実験であり、
暮らしのパンくずをつなぐ新しい道だった。

■ 森にこもるアトリエ

深い森の中、アーティストのためのアトリエをつくった。
天窓から降り注ぐ光、窓越しの木漏れ日、鳥の声。

コンテナの箱はただの箱ではなく、
自然を呼吸する「生きる器」へと変貌した。

ここでは森そのものがパンくずのように点々と散らばり、
歩くたびに未来への印となっていく。

■ パンくずは夢の軌跡 

夢は未来にある。
叶えた瞬間、それは過去になる。
家とは、その軌跡をとどめる器だ。

コンテナで家をつくるということは、
夢を逆再生し、自分に問い直す作業に似ている。

「なにを望んでいたんだっけ?」
ひとつずつパンくずを拾うように問いを確かめる。
そうしてたどり着いた場所は、
夢の始まりであり、帰り道でもある。

■ 森の研究所で体験できること 

そして──物語は研究所に続く。
君津の森にある「森のコンテナハウス研究所」。
ここは展示場であり、作業場であり、体験の舞台だ。

訪れた人は、実際のコンテナ建築を見て・触れて・確かめることができる。
鋼の質感、断熱の工夫、内装の柔らかさ。
カタログや写真では伝わらないリアルが、ここにはある。

さらに「もっとしっかり感じたい」人には宿泊体験も用意されている。
夜の静寂、朝の光、森の匂い。
コンテナで眠り、コンテナで目覚める一夜は、他では味わえない時間だ。

また、MIKAN(未完)HOUSEの施工体験もできる。
壁に色を塗り、床材を敷き、空間に自分の手を刻む。
「未完成」を受け入れ、暮らしを共に育てる感覚を肌で知ることができる。

キャッチフレーズのとおり、
**「モジュールと自由のあいだ、旅するようなコンテナハウス」**を、
ここで丸ごと体感できるのだ。

見て、触れて、感じて、泊まって。
その先には「今度は自分がつくり出そう」という衝動が待っている。
森の研究所は、夢を「見る場所」ではなく、夢を「始める場所」なのだ。

■ エピローグ:夢は、ここにある

夢のコンテナハウス。
それは遠い未来のどこかにある魔法の家ではない。
あなたが歩いてきた道の先、
落としてきた想いのパンくずが導く場所に、すでに在る。

家は、誰かが用意した正解ではない。
あなた自身が描くべき、未完の地図。

だから私は、今日もコンテナで家をつくる。
パンくずのひと粒ひと粒に耳を澄ませながら。

夢は遠くにあるのではない。
夢は、もうここにあるのだ。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。