コンテナハウスコラム
四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。
更新日:2025.08.07
コンテナ価格ブック(連載6)
Container House Price Book | 価格という名の旅のはじまり_001
第1章|本体価格のリアル_「箱」の値段はいくらか
導入:箱の価値を見直す
「コンテナハウスって、やっぱり安いんですよね?」
この問いは、建築用コンテナを扱う私たちが、日々数え切れないほど耳にする言葉である。
そして多くの場合、その言葉の奥には「安くあってほしい」「安いという話を期待している」という、
無言の“願望”が透けて見える。
しかし、ここでいったん立ち止まって考えてみてほしい。
あなたが“安い”と感じているその「箱」は、果たしてどんな「箱」なのか?

もくじ
■「コンテナ=安い」の呪縛
コンテナハウスは、その名のとおり「コンテナを使った建築」である。
しかしこの“コンテナ”という単語が、残念ながら誤解の温床にもなっている。
日本で「コンテナ」と聞けば、まず思い浮かぶのは港湾やトレーラーの上に積まれたあの鉄の箱。
その中古品が、地方のヤードで5万円〜20万円程度で売られていることもある。
そんな現実があるからこそ、人は無意識にこう思ってしまう。
「コンテナ1個10万円なら、それを家にしたら安く済むだろう」と。
だが、その発想のまま「コンテナハウス」という言葉を使ってしまえば、
建築としてのコンテナハウスと、輸送用・保管用の鉄箱が混同されてしまう。
実際、YoutubeやSNSでは、廃コンテナを再利用して秘密基地を作るDIY動画が人気を博している。
再塗装、サンダー加工、木材の内装貼り──それは確かに魅力的な作業であり、創作としての楽しさもある。
だが、それは「建築物」ではない。
確認申請も通らず、構造計算もされず、法的にもグレーな存在であるケースがほとんどなのです。

■私たちが語る「コンテナハウス」は、建築物だ
ここで、はっきりとした前提を提示したい。
私たちが語る「コンテナハウス」とは、建築基準法を満たした恒久建築物としてのコンテナ建築である。
中古でもなく、仮設でもなく、「新造された建築用コンテナ」を用いた、耐久性と安全性を担保した空間だ。
これはつまり、
基礎工事があり、
構造計算がされていて、
確認申請を通過し、
断熱・防水・内装・設備までを含めて設計された住宅や店舗であるということ。
そのうえでの「価格の話」をしなければ、それはもはや誤解の助長でしかない。

■コンテナハウスの価格にまつわる「三つの誤解」
誤解1.:「コンテナだから安いだろう」
→ 輸送用コンテナの価格と、建築用コンテナの価格は別物。
前者が1個10万円なら、後者は1基300〜600万円という世界。強度・安全・新造であることが前提。
誤解2.:「断熱して内装すれば家になる」
→ 屋根形状、採光、換気、結露対策、通気層などを無視すれば、ただの蒸し風呂 or 鉄の冷蔵庫に。
建築的ディテールと施工経験がなければ「快適性」にはたどり着けない。
誤解3.:「狭いんだから安くて当然」
→ コンパクトであっても、建築申請・構造設計・加工費は変わらない。
むしろサイズが限られているからこそ、コスト効率は悪くなることもある。

■価格は面積では測れない──「建築のミニマリズム」としての価値
「広ければ高い」「狭ければ安い」──この単純な物差しでは、コンテナ建築の本質は見えてこない。
コンテナハウスの魅力は、小さく、強く、美しい空間に“生きる密度”を詰め込むことにある。
必要最低限の面積の中に、光、風、断熱、視線の抜け、素材感を織り込む。
言わば、「削ぎ落とした美学」だ。
この空間性を得るためには、
むしろ一般的な木造住宅より繊細な設計と精密な施工技術が求められる。
結果として、価格は「小さいから安い」とはならない。
20ftサイズの単体コンテナであっても、建築としての完成度を求めれば、
**1棟300〜600万円(スケルトン〜内装済)**という価格帯になる。

では、ネットでよく見る「激安」「坪単価15万円〜」という情報は嘘なのか?
……実は、嘘ではないが、誤解を招く表現であることが多い。
例えば、以下のようなパターンがある:
「本体価格のみ」(基礎工事・運搬・電気工事・確認申請費用は含まず)
「スケルトン状態」(内装・設備は未施工)
「仮設コンテナ」(固定せず設置のみ)
「中古コンテナベース」(再塗装のみ・構造未確認)
つまり、「価格が安く見えるように構成された金額」であり、
実際に「住める状態」まで持っていくには、さらに数百万単位の費用が必要になる。

■価格をどう捉えるか?──数字の奥にある“選択の積み重ね”
ここで、もう一度「価格」というものの本質に立ち返りたい。
価格とは、単なる数字ではない。
それは、**あなたの生き方にどれだけの質を与えるかを測る“選択の結果”**である。
たとえば同じ20ftの箱であっても、
木質断熱か、スチレンか
無垢材の床か、塩ビシートか
スチールサッシか、樹脂トリプルガラスか
換気計画ありか、なしで済ませるか
その一つひとつが“選択”であり、価格を上下させていく。
だからこそ、価格を問う前に、こう問うてみてほしい。
この箱に、どんな生き方を求めるのか?
その価値に、自分はいくら払えると思えるのか?

■まとめ──価格は、文化の話である
コンテナ建築とは、ただの構造体ではない。
それは、「どのように空間と生きるか」を真っ向から問う建築文化である。
数字にだけ目を向けていると、安い・高いで議論が止まる。
だが、その奥にあるのは、生き方・暮らし方・空間に対する美意識の話だ。
本書「Container House Price Book」では、
この“価格”という切り口から、コンテナハウスの本質に迫っていく。
数字の裏にある思想、価格の背景にある技術、
そして、選択の積み重ねとしての“空間の美学”。
あなたのこれからの選択が、
ただの「箱」を、生きるための場所=HOMEに変えていくはずだ。
Container House Price Book──価格という名の旅の、はじまりへ。
記事の監修者

大屋和彦
九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。