コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.06.08

コンテナハウスのデザイン

コンテナハウスの活用術

地を這うコンテナ:クルマと暮らすガレージの詩学

現代コンテナ建築研究所の発明コンテナ  ガレージ用LAYDOWN CONTAINER

かつて、建築は天へと向かって伸びていった。 塔のように、指のように、信仰や野心や技術が、構造という名の梯子を登っていた時代。 けれどいま、私たちが思い描くのは、もっと低い場所にある。 それは地べたに寝そべるような建築。 草の中に、アスファルトの縁に、そっと身を伏せているような、そんな建築である。

私たちはそれを「LAYDOWN CONTAINER」と呼ぶ

正確には、これは従来のコンテナを90度、横に寝かせたかたちの特注設計。 高さを持つhiCube(ハイキューブ)型コンテナを横倒しにし、 その本来の「高さ」を、ガレージの「幅」として用いる。 本来立っていたものを、意図的に倒して使う。 その倒錯の美学。 一種のアンチモニュメントであり、水平への愛着表現でもある。

この建築を発明したのは「現代コンテナ建築研究所」である

構想のきっかけは、実に単純なものだった。 「車が入るコンテナがあればいいのに」という、ある顧客のつぶやき。 たしかに、20ftや40ftの標準コンテナは幅が狭く、 hiCubeでも2.35メートル程度。車がギリギリでしか通れない。 けれど高さは、2.9メートル近くもある。 もしこれを横にすれば? そう考えたとき、私たちの内部でなにかがカチリと音を立てた。

設計図を描く手が止まらなくなった。 本来は「床」だった鋼板が「側壁」になり、 「屋根」だった面が「正面」になる。 ガラスの配置、柱の再設計、雨水の処理、断熱のロジック── すべてを再構成しながら、私たちはひとつのことを強く意識していた。

これは倒された神殿ではない_横たわる生活の箱だ

地を這う、ということには、ある種の覚悟がいる。 それは「地に足をつける」と言われるような、現実への同調行為ではない。 もっと即物的に、物理的に、建築と身体とクルマが“同じ高さ”で触れ合うということだ。 ガレージと住居が、もはや“段差”を持たない。 フラットな床の上で、人も機械も、同じように眠り、起きる。 まるで、クルマが家族の一員であるかのように。

こうした感覚は、郊外の戸建てや、山中の別荘などでは直感的に理解される。 車とともに生きる生活。 けれど都市では、そうはいかない。 駐車場と住居は別で、移動と暮らしは断絶している。 そこに、この「LAYDOWN CONTAINER」は風穴をあける。低く構え、静かに寄り添う。 クルマを守り、同時にクルマに守られる。 そんな親密な距離感を、この建築は生み出す。

形態には、思想が宿る。 LAYDOWN CONTAINERが持つワイドでローな横長形状は、 機能的な合理性と同時に、ある種の“構え”を示している。 それは威圧でもなく、挑発でもなく、静かな決意だ。 「私はここにいる。だが、何も主張しない。ただ、共に在るだけだ」この姿勢は、ある種の詩的な倫理である。 装飾ではなく、沈黙によって語る。 高さではなく、広がりで魅せる。 影を落とさず、ただ地面の延長として存在する建築。それはまるで、 ある日ふと道路脇に現れた、鉄のひとひらのようだ。 落ち葉のように静かに、 そして朽ちることなく、そこに居続ける存在。

この建築は、「ガレージハウス」と呼ぶにはあまりに詩的だ。 だが実際には、ガレージとしての機能に一切の妥協はない。 内部は幅2.9m×奥行き6〜12m(1〜2ユニット)で、 電動シャッター、換気口、照明、EV充電設備、 そして断熱と空調を備える。さらに、必要に応じて奥の空間を「リビング」や「SOHO」に。 あるいは「書斎」「ベッドルーム」「工房」にも。 この“横たわった空間”は、そのまま“自由”として機能する。

住宅とはなにか。 それは必ずしも「上下階」の集合ではない。 ときに「水平面」こそが、私たちの暮らしの深度を決める。 LAYDOWN CONTAINERは、その思想を具現化した建築である。このプロトタイプを見に来た人は、しばしば驚く。 「えっ、これって、倒れてるんですか?」 そう尋ねられると、私たちは少しだけ笑って、こう答える。「ええ、“倒れている”ように見えるでしょう。 でもね、これは“寝てる”んです。のびのびと。」

この余白、この呼吸。 立ち上がる建築ではなく、寝そべる建築。 そこにこそ、いまの時代のあるべき住まいの姿があるのかもしれない。“移動”が日常化し、“速度”が支配する時代において、 あえて低く、あえて地に沿い、あえて眠るように。 それは「待つ建築」であり、「寄り添う建築」である。

クルマと暮らしの、地を這う交差点。 それが、LAYDOWN CONTAINERなのだ。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。