コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.06.02

トレーラー型コンテナハウス

トレーラー型コンテナハウスの使い方

トレーラー型コンテナハウス。可動性と建築性のあいだ。


現代における住まいとは、果たして「どこに建てるか」だけの問題なのだろうか?
都市と郊外の境界が曖昧になり、人々の働き方や暮らし方が常に流動する今、「建築は動いてはいけない」という常識を、少し疑ってみたくなる。そんな問いかけに静かに応えるようにして、現代コンテナ建築研究所では、“動かせる建築”という選択肢を見つめ直している。
そのひとつの結晶が、今回ご紹介する「トレーラー型コンテナハウス」である。

可動性を内包した建築——トレーラーベースという選択

トレーラー型コンテナハウスとは、その名のとおり、鉄製シャーシと車輪(車軸)を備えた移動可能なコンテナ型の建築である。一見、固定型のコンテナハウスと同様に見えるその構造は、実際には建築と車両のあいだに位置する曖昧な存在であり、「設置」ではなく「配置」、「施工」ではなく「搬入」というプロセスで成立する。
設置にあたって基礎工事を必要とせず、整地さえされていれば、ほとんどの場合そのまま使用が可能。地面と建築のあいだに一枚の余白が生まれることで、土地との関係性が柔らかくなり、場所に囚われない発想が可能になる。また、特定の条件を満たすことで、固定資産税の課税対象外となるケースもあり、法的にも建築と非建築の中間にあるこの存在は、制度の狭間に新しい自由を宿している。

外観と内部——スタンダードの上に個性を重ねる 


たとえば、今回撮影された2台のトレーラー型ユニット。ひとつは深いグリーンで塗装され、外壁にはコンテナ特有の波板リブが施されている。屋根にはエアコンの室外機、側面には小窓と換気口。まさに、シンプルな箱のなかに生活の機能を凝縮した、美しいプロポーションを持つ。
もう一方のイエローのユニットは、ウッドデッキとの組み合わせによって、周囲の自然環境と緩やかにつながっている。トレーラーシャーシの黒鉄フレームが少し覗くその足元には、あえて植物や土の起伏が残されており、「置かれている」というより「とどまっている」と言いたくなる静かな佇まいを見せている。
ドラム缶を再利用したプランターや、周囲のグリーンとの対話も含めて、この建築は風景とともに生きている。

用途の広がり——移動と定着、そのあいだの多様な応用


トレーラー型コンテナハウスの利点は、可動性だけに留まらない。用途の柔軟さこそが最大の魅力である。
宿泊施設として: いわゆる”モバイルホテル”の形態で、短期間の滞在から長期の定住まで対応。移設が可能であるため、稼働状況に応じて拠点を移すこともできる。
店舗やカフェとして: 仮設商業施設、イベント出店、季節限定営業にも最適。水道・電源の接続があれば即営業が可能。
オフィス・アトリエとして: ひとつの思想拠点、クリエイターのスタジオ、小規模な打ち合わせスペースにもなりうる。人と空間との関係を可逆的に保つことができる。
セカンドハウス・別荘として: 都市と自然の2拠点生活にも最適。トレーラーという形式がもたらす「土地に縛られない感覚」は、現代的なリトリート空間の象徴ともいえる。



可動建築の哲学——動くからこそ、風景に耳を澄ます
動かせる建築とは、ただの移動手段ではない。それは「土地と距離を取る」ための、ひとつの知性でもある。
地面に強く根ざさない建築は、ある意味で風景に対して謙虚だ。そこにある自然、季節、空気感に「居させてもらう」という姿勢がある。その代わり、風景に溶け込むデザイン、軽やかな佇まい、必要最小限のフットプリントが求められる。
現代コンテナ建築研究所では、単にモジュール化された「商品」としてのトレーラーハウスではなく、住まい手が風景と共鳴するための”メディウム”としての存在を目指している。

制約が生む創造性——建築における詩的な縮尺 

建築は、ときに”不自由さ”によって創造性を刺激される。
トレーラー型という前提は、法規、重量、寸法、重心、けん引能力など、さまざまな制約を内包している。しかしその制限のなかでこそ、空間の設計は研ぎ澄まされる。4m以内の高さ、2.5mの幅、10m程度の全長。そのなかでどこまで生活を内包できるか。必要とする開口部、換気性、断熱性、光と影の設計。狭さを不自由と感じるか、濃密な親密性と捉えるか。
トレーラー型コンテナハウスは、そうした詩的な縮尺の実験でもある。

技術と物語をともに運ぶ——現代コンテナ建築研究所の立ち位置 

私たち現代コンテナ建築研究所は、「建てる」ことの意味を、社会的要請だけでなく、個々人の物語として捉え直したいと考えています。
それは大げさに言えば、ひとつのライフスタイルや、価値観の再編集かもしれません。所有と移動、定住と遊動、私有と共用。境界を越えて動くユニットは、私たちの思考そのものの柔軟性をも象徴します。
建築とは、本質的には「場所への返答」である。その土地に、いかなる形で、いかなる物語を置いていくのか。
そうであるならば、動かせる建築は、「仮の返答」として、つねに更新可能なスタンスを示します。

最後に:建築に“余白”を与える

トレーラー型コンテナハウスとは、決して完成された形ではない。
それは、未完であることを前提にした、動き続ける風景との対話であり、まだ見ぬ場所への可能性そのものである。
「とりあえず、ここに置いてみる」——その一歩が、かつてない空間体験の入り口になる。
定着と移動、建築と車両、所有と旅。そのあいだを揺れ動くこの建築は、ひとつの“思想のかたち”として、これからの暮らしをやさしく問い直してくれるだろう。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。