コンテナハウスコラム
四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。
更新日:2025.10.19
03_構造と耐久性・耐火性能
コンテナハウスの耐火性能「鉄は燃えない」ではなく、「鉄も熱に負ける」
                                
                            
もくじ
■ 鉄だから燃えない?──その誤解から話を始めよう
コンテナハウスを初めて見た人が、よく口にする言葉がある。
「これ、鉄だから燃えないですよね?」
確かに、コンテナハウスの構造体は鋼材でできている。
鉄は木のように燃え上がることはないし、「不燃材**に分類される。
しかし──“燃えない”ことと“火に強い”ことは同義ではない。
鉄は高温にさらされると、分子レベルで変化し、強度を失う。
例えば600℃を超えると、鉄骨の強度は常温時の半分以下に低下し、
900℃を超えると、自重を支えられずに座屈(変形)する。
つまり、鉄は燃えないが、「熱には弱い」。
ここを誤解してはいけない。

■ 火災時、鉄骨に何が起きるのか
建物火災では、室内温度が1000℃近くまで上がることもある。
その環境下では、鉄骨構造は時間とともに「しなり」「垂れ」「座屈」していく。
木造が「燃えながらも炭化層で内部を守る」のに対し、
鉄骨は「一気に強度を失う」という性質を持つ。
したがって、鉄骨造=安全というイメージは部分的な真実でしかない。
火災時に建築を守るのは、素材の種類よりも“設計上の防火対策”である。

■ コンテナハウスにおける「耐火」「準耐火」とは何か
建築基準法上、建物の防火性能は大きく分けて三段階に区分される。
| 区分 | 内容 | コンテナ建築への適用 | 
| 耐火建築物 | 火災時に構造体が一定時間(通常1~3時間)崩壊しない | 可能だが、コスト・意匠の自由度に制約あり | 
| 準耐火建築物 | 一定の防火性能を持ち、延焼を防ぐ構造(45分~1時間) | コンテナ建築に最適なレベル | 
| 一般建築物 | 特段の耐火措置を要しない | 木造や簡易構造物など | 
IMCAでは、コンテナハウスにおいて
「準耐火建築物」までの仕様が最も現実的かつ合理的であると考えている。

■ 「耐火建築」にできる──しかし、それはコンテナの美学を奪う
理論的には、コンテナハウスを「耐火建築物」にすることも普通に可能だ。
耐火被覆(ロックウール吹付・耐火ボード被覆など)を行い、
内部構造を防火区画化することで法的にはクリアできる。
だが、問題は『その先にある「表情の喪失」』だ。
コンテナの魅力は、鉄の質感そのもの、外壁の「コルゲートパネル」などのICONにある。
その鉄肌を覆い隠し、完全に耐火被覆を施した瞬間、
それはもはや「コンテナ建築」ではなく、ただの鉄骨箱になる。
さらに、コスト面でも効率が悪くなる。
通常の準耐火仕様に比べ、約1.3〜1.6倍の費用負担が発生し、
構造体の軽量化・モジュール化というコンテナの利点が薄れる。
結果として、「耐火仕様」は思想的にも経済的にもバランスを欠く選択となる。

■ 「準耐火仕様」こそ、現実と理想の接点
IMCAが推奨するのは、「準耐火建築物」レベルの設計である。
これは、建築基準法に定められた45分〜1時間の火災耐性を備え、
一般的な住宅・宿泊施設・店舗用途に十分対応できる仕様だ。
ポイントは以下の通り。
外壁・屋根:耐火サンドイッチパネル/ロックウール系断熱材
内装仕上げ:不燃認定仕上げ材を採用
開口部:防火認定サッシまたは防火戸
構造体:JIS鋼材+耐火塗料による表面処理
これにより、デザイン性・安全性・コストのバランスを保ちながら、
『「鉄の建築美」と「防火性能」』の共存を実現できる。
■ 鉄は冷たい素材ではない
鉄は、人間の手に触れた瞬間、意味を変える。
火災に対するリスクを正しく理解し、
それを制御する技術を持つことで、鉄は「危険」ではなく「守り」になる。
建築とは、素材と向き合う誠実さの芸術だ。
火に強いという錯覚の上に立つ建築ではなく、
火と正直に向き合う建築こそが、次の時代を生き残る。

エピローグ:燃えない鉄より、信頼できる鉄を
IMCAは、鉄の力を知り尽くした上で、あえて“万能ではない”ことを伝えたい。
鉄は燃えない。だが、熱に負ける。
その弱点を認め、対策をデザインに組み込むことが、
本当の意味での「安全設計」だと考える。
建築とは、素材への誠実さの表現。
燃えない神話より、正直な現実を。
それが、IMCA_現代コンテナ建築研究所の立場である。

🔍 Q&A:コンテナハウスの耐火性能について
IMCA_現代コンテナ建築研究所が、
一般の方や事業者から多く寄せられる「耐火・防火」に関する質問の中から、特に重要な10項目を厳選してお答えします。
Q1|コンテナハウスは「鉄」だから燃えないの?
A|燃えませんが、熱には弱いです。
鉄は不燃材なので炎そのものでは燃えません。
しかし600〜700℃を超える高温に晒されると、強度が半分以下に低下し、
900℃前後で座屈(変形)や崩壊の危険が生じます。
「燃えない=安全」ではなく、「熱にどう耐えるか」が本質です。
Q2|火災で鉄骨はどうなるの?
A|構造が“しなる”ように変形します。
鉄は熱で伸びるため、溶接部やボルト接合部が先に緩みます。
やがて梁や柱が垂れ、屋根や壁が歪む。
外見上は残っていても、構造的には使用できないケースが多いのです。
Q3|では、木造より危険なの?
A*一概には言えません。
木造は「燃えながらも炭化層で内部を守る」性質がありますが、
鉄骨は「燃えないが、急速に強度を失う」。
つまり、どちらが安全かではなく、設計段階での耐火対策が鍵です。
Q4|“準耐火建築物”と“耐火建築物”の違いは?
A|火災時に「構造が持ちこたえる時間」の違いです。
準耐火は45〜60分、耐火は1〜3時間を目安とします。
住宅や小規模施設では準耐火で十分。
大型施設・病院・公共建築は耐火仕様が求められます。
Q5|コンテナハウスを“耐火建築”にすることはできる?
A|技術的には可能です。
ただし、耐火被覆材で鉄を覆うため、コンテナらしい質感が失われます。
またコストも1.5倍近く上がり、軽快な設計思想から離れてしまうため、
IMCAでは「準耐火仕様」を標準としています。
Q6|準耐火仕様のコンテナハウスは、どんな材料を使う?
A|主に次のような仕様です。
外壁:耐火サンドイッチパネル(ロックウール芯材)(コルゲートパネルのうちがわに)
屋根:ガルバリウム鋼板+耐火断熱層
内壁:不燃石膏ボード+防火仕上げ材
窓・ドア:防火サッシ・防火戸(認定品)
この仕様で、安全性とデザイン性の両立が可能です。
Q7|火災時にコンテナの中はどうなるの?
A|内部の仕上げ材や家具が燃えますが、
構造体が耐える時間を確保すれば「避難時間」を稼げます。
準耐火仕様なら、建物全体の崩壊を防ぎつつ、延焼を最小限に抑えられます。
Q8|屋外コンテナ施設(カフェ・ショップ)はどう考えれば?
A|用途によります。
飲食店舗などは「火気使用」扱いになるため、準耐火仕様または防火区画が必須です。
屋外イベントや仮設であっても、消防法・建築基準法の双方に配慮しましょう。
Q9|防火塗料や耐火被覆はどの程度効果がある?
A|効果はありますが、目的を明確に。
防火塗料は、一定時間鋼材の表面温度上昇を抑えます。
ただし「塗れば耐火」ではありません。
構造体の全体設計と組み合わせて、初めて意味を持ちます。
Q10|IMCAが推奨する“耐火設計の哲学”とは?
A|「燃えない神話ではなく、燃えても倒れない設計」。
建築を守るのは素材ではなく誠実な設計思想です。
法を守り、構造を理解し、現場を尊重する。
その三位一体の中に、真の防火安全が存在します。
🧭 総括:燃えない建築ではなく、倒れない思想を。
コンテナハウスは、鉄の建築でありながら「生き物」です。
熱を感じ、時間に晒され、そして誠実に応える。
IMCAは考えます。
耐火性能とは、数値だけではなく、建築を信じる力の尺度であると。


記事の監修者
																大屋和彦
九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
																	早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
																	建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。
                    