コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.07.27

コンテナは地震に強い_連載9

コンテナハウスは地震に強いのか?_5/9(連載)

どれほど優れた構造体であっても、「施工」が悪ければその力は発揮されません。
コンテナハウスが持つ構造上のポテンシャル――
それは、工場製作された鉄の箱の中に詰まっています。
しかし、その箱を『“家”として設置し、生活空間として成立させる”最後の工程』、つまり基礎工事・接合工事・設置工事・防振処理などを適切に行わなければ、地震への耐性は途端に低下してしまうのです。
この章では、住宅としてコンテナハウスを成立させるための耐震施工技術をわかりやすく解説します。

■ 地盤調査は「耐震性の起点」

すべての建築において、『地盤は“見えない構造体”』とも言われます。
耐震性能は「建物そのもの」だけでは決まりません。
それを支える地面が軟弱だったり、液状化のリスクを抱えていたりすると、いかに強いコンテナでも沈下・傾斜・転倒を防げません。
そのため、事前の地盤調査(スウェーデン式サウンディングなど)を必ず実施し、必要に応じて『改良工事(表層改良/柱状改良など)』を行うことが、真の意味での耐震設計の第一歩です。

■ 基礎の選び方で揺れ方が変わる

コンテナハウスでは、大きく分けて以下の3種類の基礎工法が使われます:
独立基礎(四隅+中央のみを点で支持)
 → 軽量な単体設置に適し、地震力を“逃がす”のに有効
布基礎(周囲を連続的に支持)
 → 構造的な一体性があり、連結型コンテナに適応
ベタ基礎(底面全体で支持)
 → 重量のある多層コンテナに使用され、剛性が高い
とくに独立基礎+アンカーボルト固定の組み合わせは、揺れを逃がしながらもズレを防ぐという耐震構法の好例です。
ベタ基礎は、逆に地震の揺れを“力で受け止める”タイプの耐震設計。
敷地条件や用途によって選定することが重要です。

■ コンテナ同士の連結には「耐震プレート」+「鋼材補強」

連結型のコンテナハウスでは、1本1本のユニットを構造的に「つなぐ」ことが必要です。
ただ重ねる・隣接させるだけでは、地震時に**“モジュール同士がバラバラに動いて破壊”**されてしまうおそれがあります。
そのため、私たちは以下のような耐震連結構法を用いています:
コーナーアイ同士を金属プレートで緊結
溶接による鋼材補強で“1つの躯体”にする
床・壁面の補強材を連結して剛性を増す
モルタル充填などによる耐力壁化の工夫
こうすることで、2本以上のコンテナが一体化した“箱の塊”として地震力に耐えることが可能になります。

■ 「免震」の概念すら取り込める構造 

さらにコンテナハウスの面白い点は、そのモジュール性ゆえに、免震的なアプローチも実装しやすいことです。
例えば:
コンテナの下にゴムパッド+スチールプレートを挟み、微振動を吸収
スライド構造の架台により、一定の揺れを“逃がす”
独立基礎を可動設計にすることで、“上下・左右の衝撃”を抑制
こういった「受け流す」発想の設計は、在来の木造住宅では難しく、むしろ『“可搬型構造体”であるコンテナならではの進化形態』といえます。

■ 配管・内装にも耐震的配慮を 

構造体そのものだけでなく、住宅設備も地震で壊れるポイントです。
水道配管:フレキシブル配管+緩衝支持具
電気配線:高所ルートの避け方/緩衝ループ
給湯器:架台固定+転倒防止チェーン
こうした細部にまで、“地震ありき”で設計する姿勢が、コンテナハウス全体の安全性を支えているのです。

■ 結論:コンテナハウスの強さは「施工」によって完成する

工場で完成した鉄の箱を、ただ“置くだけ”では、それは単なるモジュールに過ぎません。
しかし、地盤とつながり、コンテナ同士がつながり、設備とも一体化し、生活と共鳴しはじめたとき――それは“家”になるのです。
そしてそのすべてのプロセスを支えるのが、施工という見えない芸術。
コンテナの強さは、施工の丁寧さによって初めて地震に対して意味を持つのです。



次章では、地震対策の文脈から少し踏み込み、「なぜ“中古コンテナ”ではなく、“新造コンテナ”でなければならないのか?」という核心的な問題に迫ります。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。