コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.06.02

コンテナハウスのデザイン

読み物

鉄・ガラス・コンクリートは現代3大建築材料です

3つの原風景

鉄・コンクリート・ガラスにまつわる、個人的素材論

建築を構成する3つの素材。鉄、コンクリート、ガラス。どれも人工物でありながら、現代社会ではすっかり風景に溶け込み、もはや自然の一部のように扱われている。しかし、これらの素材がただ「そこにあった」のではなく、「私たちの内側に入ってきた瞬間」が、誰にもきっとあるはずだ。

鉄:レールの向こうに、海と未来があった「原風景_001」 

夏休みのはじまりには、父と海に行くのが恒例だった。といっても、我が家は海のそばではない。バスを乗り継ぎ、電車に揺られ、やっとたどり着く遠浅の海。私にとってその小旅行のハイライトは、実は海そのものではなく、そこへ向かう「私鉄電車」の先頭車両だった。運転席のすぐ後ろに陣取り、前方の線路を食い入るように見つめる少年。やがて、防風林が見えて来ると海が近い事は学習していた。海の気配が近づく。けれど私がもっとも惹かれたのは、景色ではなく「レール」だった。

太陽の角度によっては、水銀を流したように輝く光のスジ。車輪が触れる上面は鈍い光沢を放ち、側面には赤茶けた錆が浮いている。一つの素材に、こんなにも表情の違いがあるものかと、幼いながらに息を呑んだ。そのとき、私ははじめて「鉄」というものを意識した。無駄のない断面、極限まで絞り込まれた設計。30トンもの車両を支え、何十年も黙々と走らせる強靱な構造。ソリッドでありながら、美しく理にかなった形。

レールは、未来に向かって延びていた。少年の私は、それを追いかけながら、「鉄」という素材に無意識に憧れれていた。

コンクリート:井戸のなかの、まあるい空「原風景_002」

私は炭坑町の生まれだ。エネルギー構造の転換によって、すでに町は衰退しはじめていた。至るところに「廃屋」が点在し、子どもたちにとってはそこが最高の“遊び場”だった。ある日、友人たちとかくれんぼをしていて、朽ちた病院の中庭で、埋め立てられた「井戸」を見つけた。深くはないその井戸に寝そべり、見上げた空。それは、コンクリートの丸い縁によって、まるで額縁のように切り取られていた。まるい空。空を切り取ったコンクリート。奇妙な静けさと、圧倒的な印象だけが、幼い記憶の奥に焼きついた。のちに知る「建築素材としてのコンクリート」は、無限の自由度を持ちながら、扱いを間違えると脆くなる。だがこのときのコンクリートは、そんな理屈を超えて、「空を切り取るフレーム」として、私の原風景となった。

ガラス:透明な壁と、未来の生活「ガラスの家」「原風景_003」

テレビがまだ“家具”のように扱われていた昭和30年代。ニュース番組で紹介されたひとつの映像が、私のなかに決定的な衝撃を与えた。

「ガラスの家」

後にフィリップ・ジョンソンの作品と知るその建築は、当時の私にとって「異次元の住まい」だった。その形を覚えているので、ミースのそれではなくフィリップ・ジョンソンのガラスの家だ。中が丸見え? 壁が透明?そんな“おかしな家”に人が住んでいる。しかも、それが「かっこいい」とされている。それまでの“家”の概念がガラガラと崩れた。この体験をきっかけに、私はガラスという素材を“建築的視点”で見るようになった。

今思えば、日本の木造建築にはすでにガラスに近い感性があった。障子と柱の構成、空間の抜け。桂離宮や民家にあるその透過性は、“透明”ではないが“軽やか”だった。海外の評論家ブルーノタウトもその美を讃えていた。だが、鉄とコンクリートの建築の中にガラスが挿入されたとき、それは「空間の消失」であり、「世界との接続」だった。その美しさと恐ろしさが同時にやってきたのが、「ガラスの家」の衝撃だった。

おわりに──三つの素材と人の記憶 

鉄、コンクリート、ガラス。これらは単なる素材ではない。誰かの記憶を通して、感情を、風景を、思想を、そっと立ち上げる“触媒”である。それらは人工物でありながら、どこか人間の手を超えた“自然のような必然性”をまとっている。それぞれが人類の知恵の積み重ねであり、私たちの文明の土台でもある。鉄は、未来へ向かってまっすぐに敷かれた道だった。コンクリートは、空を額縁のように切り取った構造だった。ガラスは、世界と自分の境界を再定義する透明なスクリーンだった。素材は、道具ではない。それは「記憶の装置」でもあり、「思考の触媒」でもある。そしてそれらは、たいてい、幼い日々のどこかに、静かに佇んでいる。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。