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一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
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更新日:2025.12.11

14_CAFE開業コーチ

コンテナハウスカフェのオープン戦略 オープニングには2つのやり方がある

コーチング_第2章_準備編_008_オープニングには2つのやり方がある

コンテナハウスでつくる自分のカフェ 

長い準備と葛藤と工面を乗り越え、いよいよオープンの日が見えてきた時、最後に待っている大きなテーマがひとつあります。「この店を、どうやって世の中にデビューさせるか」。世間から見れば、その日からあなたは立派なプロのカフェオーナーです。でも実際には、その日が「ようやくプロの入り口に立っただけ」の瞬間でもある。だからこそ、オープニングはあなたの店のイメージを決める、とても大事なプレゼンテーションになります。

子テーマ1 オープニングには大きく分けて2つのやり方がある

まず、あなたに質問です。
もし今すぐオープン戦略を決めなさいと言われたら、どんな風にスタートさせますか。頭の中で一度、具体的なイメージを描いてみてください。

カフェのオープニングには、シンプルにいえば二つのパターンがあります。

ひとつは、いわゆる「派手なグランドオープン型」。
事前にチラシを大量に配り、新聞折込やポスティングも打ち、店頭には「○月○日オープン!」の大きな告知。花輪やスタンド花が並び、取引業者からも花を並べてもらい、先着〇名に粗品プレゼント、オープン記念でポイント2倍、人気商品はお試し価格で半額、お子さまには風船サービス。スタッフも全員総動員して、一週間はイベント状態で走り抜ける、というやり方です。

もうひとつは、その逆、「静かなオープン型」。
チラシも花輪も出さない。やるのは、店の前に「○月○日○時オープンいたします」という張り紙だけ。あくまで日常モードで、あくまで平常心で淡々と営業を始める。うるさく騒がず、店としてやっていくペースと空気感でそっとスタートするやり方です。

どちらが正しくて、どちらが間違いかという話ではありません。
重要なのは「どちらのスタイルが、あなたのコンテナカフェのコンセプトにふさわしいか」です。

子テーマ2 派手なグランドオープンの「強み」と「落とし穴」 

派手なグランドオープンをすすめる開業コンサルもたくさんいます。
考え方はシンプルで、とにかくオープン日に人を集めて、そこから先も来店者数を維持する努力をする、という発想です。

このスタイルを選ぶと、オープン数日間はヘルプスタッフが多く入ります。普段のメニューにはない商品も「イベント用」として並び、とにかく通常の何倍もの提供数をこなそうとする。店の中はプチチェーン店のような賑わいとスピードで回り続けます。

もしあなたが目指しているのが「チェーン系のテンポの良いカフェ」であれば、このやり方は非常に合理的です。大量集客で一気に認知を取り、チラシとポイントカードでリピートを狙う。戦略としては筋が通っています。

ただし、問題は「あなたの語る理想のカフェ像」と「そのオープニングの空気」が一致しているかどうかです。
静かに過ごせる場所を作りたいと言いながら、オープン時だけはお祭り騒ぎでスタートすると、お客様はこう思います。

「ああ、この店って、こういう感じの店なのね」

その第一印象は、一度ついたらなかなか消せません。

子テーマ3 静かなオープンで始めるという選択肢

もう一方の「静かなオープン」は、目立たない代わりに、自分のペースで始められるスタイルです。

張り紙だけでそっとオープンし、その日からほぼ通常モードで営業を始める。来てくれた人と丁寧に向き合い、オペレーションに慣れながら、少しずつ常連さんを増やしていく。

このスタイルのメリットは、

・本来の客数に近い状態でオペレーションを調整できる
・店の空気感を、最初から「ふだんモード」で育てられる
・無理な値引きや派手な販促をせずに済む

という点です。

いわゆる「ソフトオープン」「プレオープン」と組み合わせてもいいでしょう。
近隣の人や関係者だけを招いたプレオープンを一度挟み、そのフィードバックを踏まえてメニューや動線を微修正してから、本オープンに入る、というやり方も、有効な選択肢です。

子テーマ4 コンセプトと現実がちぐはぐになる瞬間

初めて打ち合わせをした時、みなさん口をそろえてこう話します。
「こんな雰囲気のカフェにしたくて」「ターゲットはこういう人たちで」

ところが、そこから話を詰めていくと、あちこちでズレが顔を出す。
メニューの話をするときの違和感。
内装のテイストを聞いたときの違和感。
椅子を選ぶときの違和感。
壁に飾る絵を持ってこられたときの違和感。

そして最後に、その人の本音とズレを一番よく表してしまうのが「オープン戦略」です。

最初に出てくる言葉は、多くの場合「本当にやりたい自分のカフェ」ではありません。
あちこちのカフェを見て「これカッコいいな」と思った断片をパッチワークした「理想のイメージ」。そのままの熱量でオープン戦略まで突っ走ると、店の本来のポテンシャルとは別の方向に印象が固まってしまう危険があります。

子テーマ5 オープン戦略は「コンセプトの最初の翻訳」

オープン戦略は、お客様にとっての「あなたの店との初対面」のシーンです。あなたが心の中で「いや本当は、こっち系のカフェをやりたい」と思っていても、オープンの見せ方が全く違う方向になっていたら、お客様はそのビジュアルと空気だけを見て判断します。「なるほど、こういう系の店なのね」その第一印象を、あとから修正するのは簡単ではありません。
だからこそ、オープン戦略を考える時は、次の問いを自分にぶつけてみてください。

・自分の店の理念、空気感、世界観は何か
・その世界観を、一番最初にどう翻訳して見せるのが正しいか
・派手さより、自分らしさを優先したとき、最適なオープニングはどんな形か

コンテナハウスのカフェは、それだけで目立ちます。
建物が強い分だけ、オープン時の「演出」が過剰だと、本来伝えたいニュアンスがかき消されやすい。だからこそ、過不足ないオープン戦略が大事になります。

子テーマ6 本日のコーチ B-008 

最後に、よくある「勘違いの成功体験」に触れておきます。

「オープン日に〇〇万円売れました」
「テイクアウト商品もあっという間に完売でした」もちろん、それ自体はすごいことです。でも、本音を言えば、その数字は長い営業人生の中でほとんど意味を持ちません。

もし「オープン時にどれだけ売れたか」だけが喜びのピークだとしたら、極端な話、オープンして四日目で店を畳んでしまうのが一番幸せです。

本当に意味があるのは、
・オープンから三ヶ月経った時に、どんなお客様が、どんなペースで通ってくれているか
・一年後に、その店が地域の中でどういう存在になっているか

という時間軸の数字です。

コンテナハウスのカフェ開業において、オープニングは「花火大会」ではありません。これから長く続く営業の日々へと続いていく、「一歩目の踏み出し方」の問題です。派手にやるか、静かに始めるか。どちらを選ぶかは、あなたのコンセプトと覚悟次第。売上の数字よりも、自分の店の理念と、オープン当日の空気がちゃんとつながっているか。そこに一番の意識を置いて、オープン戦略を組んでみてください。

Q&A 10選(子テーマ付き)

[子テーマ1 オープン戦略の基本]
Q1. コンテナハウスでカフェを開業する時、オープニングは必ず派手にやった方がいいですか?
A1. 必ずしも派手なグランドオープンが正解とは限りません。重要なのは店のコンセプトとオープン時の空気感が一致しているかどうかです。チェーン系のスピード感あるカフェを目指すなら大量集客型も相性が良いですが、ゆったり過ごすコンセプトなら静かなソフトオープンの方がイメージとズレにくいです。
Q2. 「静かなオープン」だと認知されるまで時間がかかりませんか?
A2. たしかに爆発的な初速は出ませんが、その分、店のペースとオペレーションを崩さずにお客様と出会っていけます。近隣の方やSNSでの発信を丁寧に続ければ、少し時間はかかっても「無理のないリピート客」が積み上がっていきます。

[子テーマ3 集客とリピートのバランス]
Q5. オープン日に売上目標を設定する意味はありますか?
A5.スタッフ配置や仕込み量を決める目安としての数字は必要ですが、オープン日だけの売上に一喜一憂しても本質的な意味はあまりありません。三ヶ月後、半年後の平均日商をどう作るか、そのスタートラインに立つための一日だと考えた方が、戦略もブレにくくなります。
Q6. チラシとSNS、どちらに力を入れるべきでしょうか?
A6. ターゲット層と立地によって変わりますが、住宅地や地方都市ではチラシや店頭の張り紙、通りからの見え方がまだまだ強い武器です。一方で、コンセプト性の高いコンテナカフェなら、インスタなどで世界観を発信することが、中長期の集客に効いてきます。オープン時は両方を無理のない範囲で組み合わせるのが現実的です。

[子テーマ2 プレオープン・ソフトオープンの活用]
Q3. プレオープンと本オープンを分けるメリットは何ですか?
A3. プレオープンで関係者や近隣の方に試してもらうことで、メニュー構成やオペレーションの改善点が早い段階で見えます。本オープンまでに修正ができるので、いきなり満員の中でバタバタし続けるよりも、結果として評価の高いスタートになりやすいです。
Q4. プレオープンは無料招待にすべきでしょうか?
A4. 全て無料にすると「本番と違う前提」で見られてしまいがちなので、個人的には「一部招待+一部有料」や「特別価格」での提供がおすすめです。実際の価格感に近い状態で反応をもらった方が、本番のメニュー調整に役立ちます。

[子テーマ4 コンセプトとオープニングの整合性]
Q7. 自分の頭の中の「理想のカフェ」と現実の計画がちぐはぐになっている気がします。どう整えればいいですか?
A7. まず「誰に」「どんな時間を提供したいのか」を一枚の紙に文章で書き出してみてください。そのうえで、メニュー、内装、椅子、音楽、オープン戦略がそれぞれその文章と筋が通っているかを一つずつ点検します。どこかだけ極端に浮いている要素があれば、そちらを修正した方が全体の説得力が上がります。
Q8. コンテナハウスというだけで目立つので、オープンも派手にした方が良いように感じます。
A8. コンテナ自体が強いビジュアルを持っているので、必ずしもオープン演出まで派手にする必要はありません。むしろ、建物の存在感とオープンの空気感をどう調和させるかがポイントです。静かなオープンでも、外観と看板と夜のライティングだけで十分に「特別な店」が伝わることも多いです。

[子テーマ5 実務・メンタルの準備]
Q9. オープン当日はどんな体制で臨むのが理想ですか?
A9. やりがちなのは「人を入れすぎて本来のオペレーションと違う体制で回してしまう」パターンです。オープン前に想定客数に近い状態で何度かシミュレーションをし、その体制+少し余裕を見た人数で臨むと、オープン後の日常営業にスムーズにつなげやすくなります。
Q10. オープニングが不安で決めきれません。どんな考え方を軸にすれば良いでしょうか?
A10. 迷った時の基準はとてもシンプルで「このオープンの見せ方をした時、お客様はどんな店だと受け取るか」です。そのイメージが、自分が本当にやりたい店像と近ければ、その選択はおおむね正解です。売上よりも「最初の一歩の方向」を整えることに意識を向けると、自分らしいオープン戦略が見えてきます。