建築を読む、時間を感じる。技術と詩の交差点へ

一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
技術、哲学、感性、地域——それぞれの断片を物語としてつなぎ
建築という旅のページをめくるように読める"連載アーカイブ"です

更新日:2025.12.11

14_CAFE開業コーチ

コンテナハウスでカフェ開業 保健所の基準をさくっとクリアする実践ガイド

コンテナハウスのカフェ開業 コーチング_第2章_準備編_7/10

コンテナハウスでカフェを始めようとすると、最初の大きなハードルが「保健所の基準」です。
どれだけおしゃれな店をつくっても、保健所が「許可できません」と言えば営業はできません。かといって、言われるがままに過剰な設備を入れてしまうと、イニシャルコストも面積もムダだらけになります。このコラムでは、コンテナハウスのカフェ開業を前提にしながら、保健所の基準を「さくっと、でも賢く」クリアするための考え方を整理します。キーワードは「法律を知る」「自治体のクセを知る」「自分の衛生感覚を磨く」の三つです。

■ 保健所の基準は「全国共通」ではない

まず押さえておきたいのは、保健所の基準は一枚岩ではない、という事実です。
ベースになっているのは食品衛生法です。その上に、国(厚生労働省)の通知・ガイドラインがあり、さらに各都道府県が「条例」という形で独自の基準を積み上げています。多くの市町村は、その都道府県の条例に沿って運用しているのが実態です。
ここでやっかいなのが、「自治体によって微妙に規制が違う」という点です。
東京都では問題にならないことが、別の自治体では新たな規制として飛び出してくる、ということも普通にあります。
・大都市圏の保健所
 実態に即した運用が進んでいて、話が通じやすいケースが多い。
・地方の中核市クラス
 「前例」や「内部ルール」を気にして、融通が利きにくい印象のところもある。
・かなり田舎のエリア
 現場感覚が強く、「そこまできっちり線を引かない」運用になることもある。どれが良い・悪いではなく、「同じ日本でも、保健所の感覚はここまで違う」ということを知った上でプランを組まないと、後からレイアウト総やり直し、という悲劇が起こります。

■ コンテナハウス×カフェで効いてくる三つのポイント 

コンテナハウスでカフェを計画するとき、保健所の基準が特に効いてくるのは次の三点です。
1.客席と製造スペース(厨房)の区画
2.ベーカリー・サンドウィッチなど複数業態の扱い
3.トイレの位置と動線
順に見ていきます。

【1】客席と厨房の「区画」をどう考えるか
「客席と製造スペースは区画してください」これはほぼどこの自治体でも言われる基本条件です。問題は、その「区画」をどこまで求められるか、というラインです。最近のカフェでは、あえて厨房が見えるオープンキッチンにして、手作り感やライブ感を演出したい、冷凍食品に頼っていないことを見せたい、というニーズがあります。
・ガラスで仕切って見えるようにする
・客席と厨房の間にカウンターを設ける
このあたりは、多くの自治体で問題なく認められています。
東京都の場合、店舗入口と外部とがしっかり区画されていて、内部への出入りにドアなどの簡易な仕切りがあれば、「厨房と客席を完全な壁で分ける」ことまでは求めない運用もされています。一方で、同じようなプランを持って行っても、別の市町村では「ここに壁を立てて、完全に区切ってください」と言われることもあります。
ポイントは、
「どういうリスクを避けるための区画なのか」を自分でも理解した上で、プランを組み立てることです。
・お客さまからの飛沫やホコリが食品に直接かからないようにする
・外気が直接製造スペースに流れ込まないようにする
この目的を満たすレイアウトであれば、コンテナハウスでもスマートな区画案を提案できます。


【2】ベーカリー併設カフェと「業種の掛け算」問題
ベーカリーカフェや、パンとサンドウィッチを一緒に扱う店でよく問題になるのが、「パンの製造スペースと、サンドウィッチなどの調理スペースを区画しなさい」という指導です。正直に言うと、現代の実務感覚からすれば「そこまで分ける必要があるのか?」と感じる規制もあります。パンを焼く区画と、サンドウィッチを仕上げる区画の衛生レベルが同等なら、一体として運用した方が、面積的にも、作業動線的にも合理的です。実際、東京では「コーナーとして分かれていればよい」という判断になってきていますし、他のいくつかの都市でも、そうした考え方が徐々に通るようになってきました。ここで必ず押さえておきたいのが「業種の掛け算」という考え方です。


例えば、
・パン・菓子の製造販売
・飲食店営業(カフェ)
・総菜(サンドウィッチ等)の製造販売
これらを全部分けて申請すると、その分だけ規制も検査費用も増えます。一方で、自治体によっては、サンドウィッチの製造販売を「飲食店営業」の中に含めてしまう運用もあります。その場合、「パン・菓子製造販売」+「飲食店営業」という組み合わせにまとめた方が、
・チェック項目が整理される
・検査費用も一つ分減る
というメリットが出てきます。
ベーカリー併設カフェをコンテナハウスで計画するなら、「自分のやりたいオペレーション」と「自治体の業種の考え方」を照らし合わせて、一番ムダのない組み合わせを探すことが重要です。


【3】トイレは「どちら側」に置くと有利か
トイレの位置も、保健所のチェックポイントです。
トイレと工房(厨房)が隣接している場合、「もう一枚、干渉スペースとなる部屋か廊下を設けてください」と求められることがあります。一方で、トイレを客席側・売場側に計画しておくと、この干渉スペース要求が消えるケースが多いのです。現実問題として、15〜20坪クラスの小さなコンテナカフェで、トイレのためだけに余分な数平米を確保するのはかなりの負担です。だからこそ、最初のプラン段階で「トイレは客席側に寄せる」「厨房との間に動線を挟む」といった工夫をしておくと、後の調整がぐっと楽になります。

■ 「前例がない」が一番やっかい

役所がいちばん嫌がるのは、「前例のない計画」です。
何かあったとき、自分が責められたくない、という心理が素直に働くからです。ただし、衛生上の責任を真正面から負うのは、役所ではなく店の経営者です。だからこそ、店主であるあなた自身が「衛生感覚」を磨いておく必要があります。
・どの作業がどんなリスクを持っているか
・どこまでの区画・設備があれば衛生上問題がないか
これを自分の言葉で説明できるようになれば、「前例がないからダメです」という一言で議論が終わることは減っていきます。

ここが一番大事なポイントです。
図面を書く前に保健所へ行って相談してしまうと、
・一方的に条件を並べられる
・それを全部守る前提で計画が進んでしまうこうなりがちです。
おすすめの順番は、次の通りです。
自分が理想と考える「衛生的な厨房」と「ショップ全体のレイアウト」を先に描く
その図面を持って保健所に相談に行く
納得できる指摘は素直に修正する
理屈に合わない要求があれば、冷静に「なぜそれが必要か」を確認する
出来れば、この「相談用の図面」は専門家に描いてもらった方が安心です。
コンテナハウス特有の寸法感、設備のまとめ方、配管ルートなども含めてきちんと整理されていれば、保健所側も「この事業者は本気で衛生を考えている」と判断しやすくなります。

■ 保健所の「見せてくれないチェックリスト」の存在

保健所の担当者には、本来チェック時に参照しているリストがあります。どの項目をクリアしていれば、何年ごとの再検査になるのか。何点を切ると、短いサイクルでのチェックになるのか。重要なポイントだから教えてくれればいいものを、こっそり持っています(爆)。意味がわかりませんね。
残念ながら、そのリストをユーザー側が見ることはほとんどできません。
しかし、実務上は「チェックシートで点数を付けられている」と思っておいた方が(というかそのチェックシートで点数をつけています)プランは組みやすいです。
・衛生設備やゾーニングをしっかり整える
・説明資料や図面をわかりやすくまとめておく
こうした準備は、そのまま「チェック項目のクリア数アップ」に直結します。結果として、再検査の周期も長くなり、店の運営が安定します。

■ まとめ 保健所の言うなりではなく、自分で考える店主になる 

戦後、日本は「国益を守る」という目的で、さまざまな規制をつくってきました。その当時は必要で、的を射たルールでしたが、時代は変わりました。その国レベルの規制が、考え直されることなく地方の条例・運用にそのまま落ちているケースも少なくありません。だからこそ、保健所の窓口でよく出てくるフレーズが、「私は個人的にはいいと思うのですが、そう決まっていますので……」という、あの一言です。
ここで大事なのは、感情的になることではありません。
・自分の店の衛生レベルをどう設計しているのか
・なぜその区画・設備で衛生が確保できるのか
これを理論的に説明し、必要なら条文レベルまで落として話ができると、ムダなコストや面積を削られるリスクはぐっと減ります。
コンテナハウスでカフェを開業するあなたには、「保健所の言うなりになる人」ではなく、「自分で考える衛生感覚を持った店主」になってほしい。自分なりに練り上げたプランを手に、胸を張って保健所に相談に行きましょう。それが、コンテナカフェを長く愛される店に育てるための、最初の一歩になります。

保健所の基準に関するQ&A 10選(子テーマ付き) 


[子テーマ1:保健所の基準と法律の基本]
Q1. コンテナハウスのカフェでも、普通の建物と同じ食品衛生法が適用されますか?
A1. はい、建物の構造がコンテナか木造かに関係なく、食品衛生法と各自治体の条例が適用されます。コンテナハウスならではの寸法や高床構造などをうまく活かしつつ、その枠組みの中で厨房レイアウトや設備計画を組むのが基本です。


Q2. 保健所の基準は全国共通だと思っていたのですが、自治体でそんなに違いがありますか?
A2. ベースの法律は共通ですが、都道府県の条例や運用方針によって細かな要求はかなり違います。東京都では許可されるプランが、別の自治体では「壁を増やしてください」となることも珍しくありません。開業予定地の保健所の考え方を前提にプランを調整することが重要です。


Q3. ベーカリー併設カフェの場合、どんな業種を申請するのが一般的ですか?
A3. 典型的には「パン・菓子製造販売」と「飲食店営業」の組み合わせになります。自治体によってはサンドウィッチなどの総菜製造を飲食店営業の枠に含めて扱う場合もあり、業種の掛け算を減らせばその分、検査費用やチェック項目も減らせます。


[子テーマ2:設計・レイアウトと厨房計画]
Q4. 客席と厨房は必ず壁で完全に区切らないといけませんか?
A4. 「完全な壁」が絶対条件かどうかは自治体ごとに異なります。目的は、客席や外部からの飛沫・ホコリなどが調理中の食品に直接かからないようにすることです。ガラス間仕切りやカウンターでのゾーニングで目的が達成できれば問題ない、という運用をしている自治体もあります。


Q5. トイレは厨房の近くに置いてはいけないのでしょうか?
A5. トイレと厨房が直接隣接していると、干渉スペースとなる前室や廊下を求められることがあります。限られた面積のコンテナカフェでは、トイレを客席側・売場側に寄せて、厨房との間に一つ動線を挟むレイアウトにしておくと、余計な面積を使わずに済むケースが多いです。


Q6. 15〜20坪程度の小さなコンテナカフェでも、保健所対策で厨房が手狭になりがちです。どこを優先すべきですか?
A6. 重要なのは、実際のオペレーションと衛生リスクの高い作業に面積を優先配分することです。加熱・洗浄・冷蔵といったゾーンが無理なく分かれているか、従業員同士がぶつからずに動けるかを優先し、その上で客席とのバランスを調整します。見栄えよりも「安全に、ストレスなく作れるライン」を先に決めるのがコツです。


[子テーマ3:保健所との付き合い方・実務運営]
Q7. 保健所にはいつ相談に行くのがベストタイミングですか?
A7. 一番良くないのは「何も図面がない状態で行ってしまうこと」です。先に自分の理想レイアウトを描いてから、その図面を持って相談に行くと、具体的な指摘を受けながら無駄のない修正ができます。相談用の図面は、できれば専門家にまとめてもらうと議論がスムーズです。


Q8. 保健所の担当者と話すとき、どこまで突っ込んで質問してもいいのでしょうか?
A8. 感情的にならない限り、むしろ「なぜそれが必要なのか」を具体的に聞いた方がいいです。目的が分かれば、別の方法でその目的を達成できるプランをこちらから提案できますし、相手も「衛生を真剣に考えている事業者だ」と認識してくれます。


Q9. チェックリストや内部基準を見せてくれないとき、こちらはどう準備すればよいですか?
A9. 実務上は「チェックシートで点数を付けられている」と想定して準備するのが賢いやり方です。図面、設備仕様、オペレーションの説明資料などを整理し、「どこまで衛生を意識して設計しているか」が一目で伝わるようにしておくと、自然と評価も高くなり、再検査の周期も長くなりやすいです。


Q10. コンテナハウスでカフェを開業するうえで、保健所対応で一番大切なマインドは何ですか?
A10. 一言でいえば「言われるままではなく、自分の頭で考える店主になること」です。法律や条例をざっくりでも理解し、自分なりの衛生基準とレイアウトの考え方を持ったうえで保健所に向き合うと、ムダなコストや面積を削られずに済みますし、結果的にお客さまにも安心してもらえる店づくりにつながります。