建築を読む、時間を感じる。技術と詩の交差点へ
一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
技術、哲学、感性、地域——それぞれの断片を物語としてつなぎ
建築という旅のページをめくるように読める"連載アーカイブ"です
コーチング 第2章 準備編 006
もくじ
コンテナハウスのカフェ開業 厨房機器は何が必要ですか?
コンテナハウスでカフェを開きたい人にとって、「どんな厨房機器を揃えればいいか」は、避けて通れないテーマです。ところがこの「機械」の話、冷静さを失いやすい分野でもあります。「あれも欲しい」「これも格好いい」とやっているうちに、あっという間に予算オーバーになる。しかも、その多くはオープン直後にはなくても困らない機械だったりする。今日は、「コンテナハウスのカフェ開業」にフォーカスしながら、厨房機器の考え方を整理していきます。
厨房機器はコンセプトから逆算して決める
厨房機器は「何となく」揃えるものではありません。提供するメニューがはっきり見えてくれば、必要な機器は必然的に決まってきます。エスプレッソ中心なのか、ドリップコーヒー中心なのか、焼き菓子とキッシュまでやるのか、パスタやカレーも出すのか。コンセプトとメニューが曖昧なまま機械を眺めていると、「便利そう」「かっこいい」の呪文にあっという間に飲み込まれます。まずは紙とペンを出して、自分の店で「毎日必ず出すメニュー」だけを書き出してみてください。そのリストから逆算して「これがないと成立しない機械」だけを抜き出す。ここが第一歩です。
「絶対必要」「あれば便利」「なくても代用可」に仕分けする
厨房機器を考える時は、いきなりカタログを眺めないこと。最初にやるべきは、頭の中の機械リストを「絶対必要」「あれば便利」「なくても代用可」の3つに仕分けすることです。絶対必要は、その機械がないとコンセプト自体が崩壊するもの。たとえば、エスプレッソバーならエスプレッソマシンは絶対必要です。あれば便利は、「あると仕込みが少し楽になる」「ピークタイムのストレスが減る」といった類いのもの。なくても代用可は、「鍋とコンロでも間に合う」「オーブンで兼用できる」タイプの機械です。開業時は、このうち「絶対必要」だけに絞る。便利ゾーンは、売上がついてきてからで十分です。
未熟なオーナーほど機械を欲しがるという現実
ちょっと耳が痛い話をします。技術や経験がまだ伴っていない人ほど、立派な機械を欲しがる傾向があります。あの店に入っていた最新型のオーブンが欲しい、このブランドのマシンじゃないと嫌だ、と銘柄指定で夢を語り始める。気持ちはわかります。新しい機械は見ているだけで楽しいし、自分が一段レベルアップしたような錯覚も与えてくれます。でも、機械が増えれば増えるほど、初期投資もローン返済も増えるのは事実です。荷物を増やせば増やすほどフットワークは重くなる。お店も同じです。自分の腕に自信がないほど、機械に頼りたくなる。ここを自覚しておくと、冷静な判断がしやすくなります。
パスタ茹で器・スチコン…それ、本当に今要る?
代表的な例を挙げましょう。パスタ茹で器。パスタ専門店として回転数重視でやるなら必要かもしれませんが、まだオープンもしていない段階から「専用のパスタ釜が欲しい」と言っている時点で少し危険信号です。まずは鍋とコンロで十分です。行列店になって鍋が追いつかなくなってから、改めて考えればいい。スチームコンベクションオーブンも同様です。宴会場やホテルの宴席を回すならともかく、小さなコンテナハウスのカフェで、開業初日から大型スチコンが本当に必要でしょうか。最初は普通のオーブンレンジやコンベックで十分です。「機械がないとできない店」ではなく、「自分の手でなんとかしてしまう店」を目指した方が、開業時のキャッシュフローははるかに健全になります。
本当に腕のあるオーナーシェフは厨房を選ばない
これまで何件も開業をサポートしてきましたが、本当に腕のあるオーナーシェフは、驚くほど機械にこだわりません。「ストーブとオーブンは、ちゃんと火が入れば何でもいいよ」と涼しい顔で言う。予算の関係で、正直ちょっと年季の入りすぎた中古オーブンしか入れられなかった現場でも、初日のキッシュが恐ろしく美味しかった、という場面を何度も見てきました。道具はあくまで道具です。最新機種であることより、「今ある道具でどこまで出せるか」を追い込める人が、結局はお客様の心をつかみます。機械に投資する前に、自分の技術とメニューに投資する。ここを間違えないことが、長く続く店づくりの基本です。
客単価1200円の商売で機械ローンを組むということ
カフェは「一個3,000万円の酒杯」や「1億円のダイヤモンド」を売る商売ではありません。客単価1200円前後の商売で生きていく世界です。その中で、必要性の薄い機械に何百万円というローンを組むということは、その機械のために何杯のドリンク・何皿のフードを「純利益」で積み上げなければならないか、という話になります。冷静に計算してみてください。「この機械のローンを返すために、毎月純利益で何杯分売る必要がある?」と。そう考えると、「今じゃなくていい機械」はかなり見えてくるはずです。機械の不足は、自分の手と工夫で補えば良い。機械のローンを払うためにカフェを開業するわけではない、という原点を忘れないでください。
開業時に最低限あればいい厨房機器「7つの基本」
では、コンテナハウスの小さなカフェを想定した時、開業時に最低限あればいい厨房機器は何か。諸条件にもよりますが、スタートラインとしては、次の7つで十分やっていけます。
電子レンジ(またはオーブンレンジ)
オーブン(焼き菓子やグラタンなど、焼成が必要な場合)
コーヒーマシン(ドリップかエスプレッソかはコンセプト次第)
冷凍庫(アイス、冷凍生地、ストック用)
冷蔵庫(ドリンク、乳製品、仕込み食材)
フードプロセッサー(仕込みの効率アップ用)
その他小道具(鍋・フライパン・ボウル・計量器・ハンドミキサーなど)
これだけあれば、コーヒーと軽食、簡単な焼き菓子を提供するカフェとしては十分スタートできます。ここに「店の顔」となる1〜2品を支える専用機器を足すかどうかは、コンセプト次第です。
コンテナハウスカフェならではの厨房機器の注意点
コンテナハウスのカフェ開業では、スペースと電力容量に特に注意が必要です。大型機械を増やせば増やすほど、ブレーカー容量は上がり、配線も太くなり、工事費も嵩みます。しかもコンテナ内部は限られた面積しかないので、機械を詰め込むと人が動けない厨房になります。「狭いけれど気持ちよく動ける厨房」をつくるためには、機械の数を絞り込むことが何よりの設計です。機械を決める時には、「電力容量」「設置面積」「排気・給気」の3つをセットで考えるようにしましょう。
機械を増やすタイミングの考え方
機械を増やすベストタイミングは、「手作業で限界を感じてから」です。具体的には、毎日のオペレーションの中で「ここを機械に任せれば、あと30分仕込み時間が短縮できる」「この作業がネックになってお客様を待たせてしまっている」といったボトルネックがはっきり見えてきた時です。オープン前に「あったら便利そう」で揃えた機械は、意外なほど出番が少ないものです。逆に、実際に店を回してみると、「意外とここが大変だった」というポイントが見えてきます。その時点で初めて、「この機械は売上と利益で十分に回収できる」と判断できるようになります。
本日のコーチングまとめ
厨房機器は「欲しいものリスト」ではなく、「コンセプトから逆算した必需品リスト」から選ぶ。開業時は、最低限の機械で十分。マシンに頼る前に、自分の腕とメニューを磨く。客単価800円の商売で何を背負うのかを冷静に計算する。機械は、店が育ってからいくらでも足せます。スタートラインは、軽装で行きましょう。
カフェ開業 厨房機器 Q&A 10選
Q1. カフェ開業で本当に必要な厨房機器は何ですか?
A1. コンセプトによりますが、小さなコンテナハウスカフェなら、電子レンジ(またはオーブンレンジ)、オーブン、コーヒーマシン、冷凍庫、冷蔵庫、フードプロセッサー、基本的な小道具一式があればスタートできます。その他の機械は、「その機械がないと成立しないメニュー」が出てきてから検討しても遅くありません。
Q2. 開業時からスチームコンベクションオーブンは必要ですか?
A2. 宴会場や大量調理が前提の業態でなければ、多くの場合は不要です。小さなカフェであれば、オーブンレンジやコンベックで十分対応できます。スチコンは高価で電力も食う機械なので、「本当にその機能がないと回らないタイミングが来てから」導入を検討するのが現実的です。
Q3. パスタ茹で器は入れた方がいいですか?
A3. パスタ専門店として高回転で回すなら検討の余地がありますが、カフェの一品として軽くパスタを出す程度なら、鍋とコンロで十分です。パスタ専用機は設置スペースもコストもかかるため、「鍋が追いつかないほどパスタが出る店」になってからで遅くありません。
Q4. コンテナハウスのカフェで注意すべき厨房機器のポイントは?
A4. 一番のポイントは「電力容量」と「スペース」です。大きな機械を増やすほど契約電力も工事費も増え、厨房もどんどん狭くなります。導入する前に、機械ごとの消費電力と設置寸法を必ず確認し、コンテナの中で無理なく動けるプランかどうかを優先して考えましょう。
Q5. 厨房機器は新品で揃えるべきですか?中古でも大丈夫ですか?
A5. 機械によります。冷蔵庫や冷凍庫、オーブンなどは状態の良い中古で十分なことも多いです。一方、エスプレッソマシンやグラインダーなど、品質が味に直結する機械は状態を慎重に見極める必要があります。新品・中古の判断は、「味への影響」と「修理・メンテのしやすさ」で決めるのがおすすめです。
Q6. 厨房機器の予算は、全体のどれくらいを目安にすべきですか?
A6. 店舗規模や業態にもよりますが、小さなカフェなら内装工事費や物件取得費に比べ、厨房機器は「コンセプトに必要な最低限+α」に抑えた方が安全です。全体予算が限られている場合は、機械より先に、物件・厨房レイアウト・客席環境に投資した方がリピート率には効きます。
Q7. 開業時に入れず、後から追加すれば良い機械の基準は?
A7. 「人力で代用できる作業」「オーダー数が読めないメニュー」「売れるかどうか未知数のメニュー」に必要な機械は、後から追加で十分です。逆に、「コンセプトの中心にあるメニュー」を支える機械は、最初から必要になります。この基準で切り分けると判断しやすくなります。
Q8. 厨房機器を選ぶとき、銘柄やブランドはどの程度こだわるべきですか?
A8. プロ用メーカーであれば、ブランドよりも「メンテ体制」「部品供給」「修理対応エリア」の方が重要です。特にコンテナハウスで郊外や離島に出店する場合、近くで修理できないと致命傷になります。ブランド名より、「困った時に誰が直しに来てくれるか」を重視してください。
Q9. セルフビルドで厨房をつくる場合の注意点は?
A9. セルフビルドでやるとしても、電気容量の計画、給排水のルート、換気計画、動線計画は、必ずプロの設計者と一度は整理しておくべきです。その上で、棚や造作、ペイントなど「見た目や収納」の部分をセルフビルドに開放すると、安全と楽しさのバランスが取りやすくなります。
Q10. 厨房機器選びで一番大事な考え方は何ですか?
A10. 「売上と利益で回収できるかどうか」を冷静に見ることです。機械が増えれば、それだけローンと維持費が増えます。その機械が生み出す売上が、それを上回るのかどうか。カタログを眺める前に、エクセルやメモ帳で計算してみてください。機械ではなく、自分の腕とメニューこそが、カフェの本当の武器です。
おすすめ関連記事
