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更新日:2025.12.05

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コンテナハウスのカフェ開業コーチング|第2章 準備編 4/10B-004 資金の調達をどう考えてますか?

はじめに:開業資金は「夢」と「数字」がぶつかる場所 

カフェ開業という目標は、とてもロマンチックに見えますが、その足元はかなりシビアな「定量の世界」に乗っています。極端に言えば、お金があれば店はつくれるし、お金がなければどれだけ夢やアイデアがあっても物理的には店は立ち上がりません。資金が自分の貯金であろうが、親の援助であろうが、銀行からの借入であろうが、店づくりに注ぎ込まれた瞬間、そのお金はすべて等しく「開業資金」になります。ただし、どこからどういう条件で持ってきたお金かによって、その後の経営の息苦しさや心理的な重さが大きく変わることは、強調しておきたいポイントです。

自分と借金の距離感を棚卸ししてみる 

まず、自分と「借金」との付き合い方を棚卸ししてみましょう。銀行の住宅ローン金利がざっくりどのくらいか、住宅金融公庫(今なら住宅金融支援機構)で借りると金利帯はどのあたりか、いわゆる高利貸しと呼ばれるレベルの金利が何パーセントくらいからか、説明できますか。これまでの人生でローンを組んだことがあるなら、それは何を買うためのローンだったでしょうか。家でしょうか、車でしょうか、家電でしょうか。それとも、気づいたらリボ払いの残高がたまっていたタイプでしょうか。

世の中には、安いものでも平気でローンを組む人もいれば、「借金は家を買うとき以外は一切しない」と決めている人もいます。壁と同じくらいのサイズのテレビを、息切れしそうな長期ローンで買ってしまう若者もいます。以前に比べれば、借金に対する抵抗感は確かに薄れているかもしれませんが、カフェ開業に向いているのは「何でもかんでもローン派」ではありません。「本当に大事な、自分の人生に関わること以外には借金はしない」と言えるタイプ、つまり家、せいぜい車くらいしかローン経験がない人の方が、開業後に足元をすくわれにくいと感じます。(個人的には車くらい現金で買ってほしいところですが、フェラーリを現金で買えるような人はたぶんカフェをゼロから開業しようとは思わないので、この話は一旦置いておきましょう。笑)

開業後の「追加借入」が危険な理由

なぜここまでローンへの態度にこだわるのかというと、「借金を簡単に使える人は、開業後も簡単に借金に頼りがち」だからです。開業後に追加の借入を検討する局面というのは、実務的には二つしかありません。ひとつは本当に資金が尽きかけている、撤退の瀬戸際にあるとき。もうひとつは、絶好調で、税金対策と新しい投資をセットで考えているとき。前者は延命策、後者は攻めの戦略です。「なんとなく足りないから手を打つか」という中途半端な借入は、そのどちらにも該当しない危険な領域だと知っておいてください。

開業資金の三本柱:自己資金・借入・親からの援助 

では、コンテナハウスでカフェを開業するための資金は、どこから持ってくるのか。基本的なルートは三つです。「自己資金」「借金(融資)」「親などからの援助」。この三本柱のバランスが、その後の経営の安定感と自由度をほぼ決めてしまうと言っても過言ではありません。

自己資金で開業できるなら、それは本当に素晴らしいことです。長い時間をかけてコツコツ貯めてきた努力そのものが、あなたの本気度と覚悟の証明になります。ただし、その場合でも、全額を開業に突っ込んで手元をゼロにしてしまう必要はありません。きちんと条件の良い融資を組み合わせて、適切な金利で一部を借りることで、「運転資金」や「予備費」としての余力を残しておくことができます。この余力が、オープン直後の売上が安定しない時期を乗り切るための安全弁になってくれるのです。

自己資金と借入のバランスをどう決めるか

次によくあるのが、「頭金は自己資金で用意し、残りは借入に頼る」というパターンです。ここで初めて、あなたの返済能力が数字として評価されることになります。「借入限度額」という言葉を、現実として突きつけられる瞬間です。「絶対返します、最高のカフェを作るから1億円貸してください」と熱弁しても、それだけではお金は動きません。金融機関は、あなたの過去の返済履歴、貯蓄状況、勤続年数、現在の債務残高などを総合的に見て、「この人に、どこまで貸せるか」を静かに判断します。いくら技術があっても、頭金はゼロ、消費者金融の残高はたっぷり、銀行預金もほとんどなし、という状態であれば、どれだけ夢を語っても融資はほぼ不可能です。

このコーチングシリーズ全体では、「開業に資金をかけすぎない」という発想を一貫して大事にしています。べらぼうな大金を用意しろと言いたいわけではありません。ただ、「普通に社会人として暮らしてきて、1000万円前後の借入なら通るくらいの信用は持っている」状態を目指してほしい、というのが本音です。それは派手な成功をしろという話ではなく、支払いをきちんと守り、消費者金融ではなく正規の金融機関と付き合い、最低限の貯蓄習慣を持って生きてきてほしい、という意味に近いかもしれません。

親からの援助のメリットと落とし穴 

三つ目のルートが「親などからの援助」です。これは一見、とても手っ取り早く、簡単で、ラッキーな方法に見えます。確かに、自己資金ゼロからでもスタートラインに立てる可能性は広がります。しかしその裏側には、別のリスクやややこしさが潜んでいます。まず、大人として独立したいタイミングで「親におんぶにだっこ」で始めることへの、どうしようもない気恥ずかしさ。そして、その援助が配偶者側の実家からの場合、「遠慮」と「力関係」が、今後何年もついて回る可能性があります。

さらに厄介なのが、「金を出したら口も出す」のが親という存在だという点です。心配と愛情からの行動ではあるのですが、せっかくの自分の店に「親の理想の店」が侵入してくるケースは珍しくありません。最悪なのは、親族に元大工や元内装業者がいる場合です。ここぞとばかりに建築に口を出し、あなたがコンテナでイタリアンバール風カフェを作りたいと描いているのに、気づけばそば屋仕様の椅子と立派な欄間に支配された「謎の和風コンテナカフェ」になっていた、というかなり悲しい笑い話も本当に起こり得ます。頼るなとは言いませんが、「自分の陣地の大将は自分ひとりにしておく」ことの意味は、よく考えておいた方がいいでしょう。船頭が多い船は、たいていどこにも到着できません。

公的融資と「1000万〜2000万」のライン 

では、具体的な資金計画はどう組むのか。社会人として一定の信用を積み上げてきた人であれば、市町村の制度融資、商工会議所・商工会の融資制度、日本政策金融公庫(旧・国民生活金融公庫)などを活用することで、1000万〜2000万円程度の融資を受けることは十分に可能です。そのための基本的な条件(延滞のないクレジット履歴、ある程度の勤続年数、最低限の自己資金など)については、A-009で整理しました。

開業資金の全額を公的融資に頼る必要はありませんが、「公的機関から1000万〜2000万円の融資」「自己資金で数百万円」を組み合わせれば、コンテナハウスのカフェ開業は現実的な射程に入ってきます。準借入的な方法として、厨房機器をリース契約にする選択肢もありますが、リースは期間が短いぶん月々の負担が重くなりがちで、ギリギリの収支で回るカフェには向きません。収益性にしっかり余裕が見込める場合や、耐用年数を見越して計画的に導入する場合に限って検討するのが賢明です。

なぜ「2500万円」がバランスラインなのか

私自身は、本来「技術のある人が、ほとんど自己資金がなくても起業できるような仕組み」が整っている社会であってほしいと考えています。それは最終的に、国全体の活力や多様性に直接つながるからです。その理想に近づけるために、「開業資金の大きさ」「店のシステム(ミニマムなコンテナハウス構成)」「借入の方法」のバランスを、現実的なラインで突き詰めて考えてきました。その結果として出てきたのが、「コンテナハウスでカフェを開業する場合、総開業資金2500万円前後がバランスの良い目安」という数字です。

2500万円という額は、決して潤沢とは言えませんが、ギリギリでもありません。あくまで「技術のある人が無理をせず、変な媚びを売らなくても続けていけるライン」としての2500万です。この枠におさめようとすれば、店舗デザインで我慢する部分も出てきますが、その代わりに「やたら安売りをする」「ポイントカードを乱発する」といった自分を削る経営をしなくて済みます。足りないと感じる部分があれば、予想以上に儲かったあとで、ゆっくり増築や改装をすれば良いのです。

コンテナカフェ開業のモデル像と、B-004のゴール

とりあえずの基準として、「コンテナハウスで延べ床面積18坪程度のカフェをつくり、厨房機器は一部中古品を活用し、土地代は含まず(借地も可)、オーナー本人+ヘルプ1人+売場にもう1人の3人体制で運営する場合、総開業資金2500万円前後」。これが、このコーチングが前提としている一般的な数字です。この数字を出発点として、自分はどこまで自己資金を用意できるのか、いくらくらいまでなら借入が現実的か、親からの援助をどう位置づけるのか。ここを冷静に組み立てることが、準備編B-004のテーマです。

資金の調達をどう考えてますか? Q&A 厳選10選

Q1.コンテナハウスでカフェ開業するには、総額どれくらいの資金が必要ですか?
A.本コーチングでは、延べ床面積18坪程度のコンテナカフェ(厨房に一部中古機器を含む、土地代別、3人体制運営)を前提に、総開業資金の目安を2000万円前後と想定しています。これは豪華な内装を前提とした金額ではなく、「技術のある人が無理をせずに続けられるライン」としての目安です。

Q2.自己資金はどれくらい必要でしょうか?
A.ケースによりますが、公的融資で1000万〜2000万円程度を借りることを想定するなら、自己資金として数百万円を用意しておきたいところです。自己資金がゼロでもスタートラインに立てないわけではありませんが、融資審査の観点からも、開業後の運転資金の観点からも、最低でも総投資の2〜3割程度の自己資金は欲しいところです。

Q3.カフェ開業資金は、日本政策金融公庫から借りられますか?
A.一定の条件を満たしていれば、日本政策金融公庫(旧・国民生活金融公庫)の新規開業向け融資制度を活用することで、コンテナカフェ開業資金の一部を賄うことは十分に可能です。必要なのは、事業計画書、収支シミュレーション、自己資金の証明、過去のクレジット履歴などです。市町村や商工会の制度融資と組み合わせるケースも多く見られます。

Q4.親からの援助でほとんどをまかなうのはアリですか?
A.資金面だけを見ればアリです。ただし、親からの援助には、「感情面」「関係性」「経営への口出し」といった別種のコストがついてくる可能性があります。自分の店なのに、自分が決定権を持てない状態は、長期的にはストレスになります。親からの資金はあくまでサポートであり、大将は自分である、という線引きを意識しておくことが大切です。

Q5.開業資金を消費者金融やカードローンで借りるのはどうですか?
A.原則としておすすめしません。金利が高く、返済期間も短めになることが多いため、カフェのような薄利多売型のビジネスとは相性が良くありません。正規の金融機関からの事業融資、公的機関の制度融資を軸に資金計画を組み、それでも足りない場合は、開業規模そのものを見直す方が安全です。

Q6.厨房機器をリースにして初期費用を抑えるのは得ですか?
A.一概に得とも損とも言えません。リースにすると初期投資は抑えやすくなりますが、リース期間が比較的短く設定されることが多く、その分月々の支払額が大きくなります。利益に十分余裕が見込める場合や、耐用年数の短い機器を入れ替え前提で導入する場合には有効ですが、ギリギリの収支で回るカフェには負担が大きくなる可能性があります。

Q7.開業資金2500万円というのは、土地代も含めた金額ですか?
A.ここでの2500万円は、土地代を含まない前提です。土地を購入する場合は、別途その費用が必要になります。借地や既存敷地、遊休地を活用するケースを中心に想定しています。資金計画を立てる際には、「土地(または賃料)」「建物・内装」「設備(厨房機器など)」「運転資金」の四つを分けて考えると整理しやすくなります。

Q8.借入限度額は、どうすれば分かりますか?
A.最終的には金融機関の審査によって決まりますが、ざっくりした目安は「年収」「既存の借入状況」「自己資金」「クレジット履歴」などから想定できます。日本政策金融公庫や取引のある銀行に事前相談し、開業の構想と現在の収入・資産状況を伝えることで、大まかな融資可能額の感触を教えてもらえることが多いです。

Q9.開業前に借金ゼロにしておいた方がいいですか?
A.消費者金融や高金利のカードローンなどは、可能な限り整理しておくべきです。住宅ローンや、適正な金利で組まれた車のローン程度であれば、すぐにゼロにする必要はありませんが、返済負担が重い借入が残っていると、融資審査に悪影響が出る可能性があります。「高金利の借入を整理してから開業準備に入る」という時間の使い方も、立派な準備の一部です。

Q10.まず何から始めれば、資金計画が現実的になりますか?
A.最初の一歩としては、次の三つを紙に書き出すことをおすすめします。
1)コンテナカフェのイメージ(坪数・席数・業態)
2)総開業資金2500万円前後を前提に、「自己資金」「借入」「親等の援助」をざっくりどう配分したいか
3)現在の自己資金と、これからいつまでにいくら貯められそうか
この三つを書き出してみると、自分が今どの地点にいて、どのくらいの期間で資金面の準備が整いそうかが、かなりはっきり見えてきます。そこから先は、具体的な融資制度や金融機関との相談に進んでいく流れになります。