コンテナハウスコラム
四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。
更新日:2025.12.07
コンテナハウスの歴史
コンテナハウスの歴史(黎明期)|中古コンテナ改造から建築用新造コンテナ建築へ
もくじ
はじめに|なぜ「コンテナハウスの歴史」を振り返るのか
日本で「コンテナハウス」という言葉が一般化したのは、ここ十数年のことです。
しかし、その背後には、海上輸送用コンテナの改造から始まり、違法コンテナ問題をくぐり抜け、建築基準法に対応した「建築用新造コンテナ」の時代へとたどり着く、独特の歴史があります。
ただの昔話として語るためではありません。なぜ日本のコンテナハウスは、今のような姿になったのか。
その道のりを知ることは、
・どんなコンテナハウスなら安心して永く使えるのか
・どこからが危ないグレーゾーンなのか
・なぜ「建築用新造コンテナ」が必要になったのか
を理解する上で、大きなヒントになります。
ここでは「日本のコンテナハウスの歴史」を、なるべく平易な言葉でたどってみます。
第1章|海上コンテナ改造から始まった黎明期
日本で最初に広まったコンテナハウスは、厳密には「コンテナハウス」ではなく「海上コンテナを改造した小屋」でした。使われていたのは、港や物流現場で役目を終えた中古の海上輸送用ISOコンテナ。
それを農家の倉庫や道具置き場、現場事務所、簡易な休憩小屋として再利用する流れが、1980〜1990年代にかけて広がっていきます。
・とにかく鉄の箱だから頑丈
・雨風をしのぐには十分
・中古なので本体価格が安い
このあたりが魅力でした。この時代はまだ、「建築物」というより「面白い箱」「仮設的な小屋」として扱われるケースがほとんどでした。
第2章|「違法コンテナ」「グレーなコンテナ建築」の時代
やがて、この流れが一歩進みます。中古コンテナに窓や扉を開け、内装を貼り、ちょっとした事務所や住居風に使う人が増えていきました。しかし、ここで大きな問題が出てきます。海上コンテナは「船やトレーラーで荷物を運ぶための工作物」であって、「建築物」としては設計されていません。
・基礎がない、または簡易
・構造区分が曖昧
・耐震・耐風・積雪の検討がされていない
・防火・避難・用途地域の考え方が整理されていない
といった理由から、行政から指導が入るケースも増え、「コンテナを置いて部屋として使っているが、これって違法では?」という声も出始めました。この時期に「コンテナハウス=グレー」「コンテナ建築=違法すれすれ」というイメージが生まれ、日本のコンテナハウスの歴史にとって、ひとつの“負のイメージ”が刻まれます。
第3章|建築基準法の壁と、建築用新造コンテナという解決策
日本は地震大国であり、建築基準法は世界的に見ても厳しい国です。いくら鉄の箱が頑丈そうに見えても、
・どの方向にどれだけの荷重を受けるか
・地震や風、積雪にどう耐えるか
・火事のときにどう避難するか
が設計として整理されていなければ、「建築物」として認めることはできません。ここで登場したのが、「建築用新造コンテナ」という考え方です。海上輸送用コンテナを“あとから建物に転用する”のではなく、最初から建築物として使う前提で設計・製造する。

・JIS規格の鋼材・部材を使う
・ラーメン構造やハイブリッド構造など、構造計算可能なフレームを採用する
・屋根・床・壁・開口部の連続性と耐力を検討する
・建築確認申請の対象になる「建築物」として図面を描く
こうした要件を満たす「建築用新造コンテナ」が開発され、コンテナハウスはようやく「正式な建築物」としてのスタートラインに立ちます。中古コンテナ改造の時代から、「建築用新造コンテナのコンテナ建築」の時代への転換。これが、日本のコンテナハウスの歴史における、最初の大きな転機です。
第4章|用途の広がりと、コンテナ建築の多様化
建築用新造コンテナが整い、建築確認を通すためのノウハウが蓄積されてくると、コンテナハウスの用途は一気に広がります。
・コンテナハウスとしての住宅・別荘・タイニーハウス
・コンテナホテルやグランピング施設の宿泊棟
・カフェ、ショップ、ワイナリーのテイスティングルーム
・ゴルフ場のスタートハウスや避難小屋
・工場ユニット、プラント用コンテナ
・離島や山間部など、現場施工が難しい場所での建築
コンテナの強みは「工場でつくり、輸送インフラに乗せて運べる」ことです。フェリーやトレーラーで運び、現地で据え付けるという工場製作+現場据付型の建築システムは、離島や厳しい現場条件の多い日本にとって非常に相性のよい仕組みでした。
このフェーズで、コンテナハウスは「安くて面白い箱」から「物流と建築をつなぐシステム」としての側面を強めていきます。

第5章|コンテナらしさと建築らしさのバランス
もうひとつの進化は「デザイン」の面です。最初期のコンテナ建築は、波板状のリブをあえて見せた“コンテナらしさ全開”のデザインが多くありました。一方で、建築用新造コンテナの技術が進むにつれ、
・コンテナらしさを前面に押し出したデザイン
・あえてコンテナには見せない、上品なファサード
・木造やRCとのハイブリッドで、コンテナを“見せない構造体”として使う
といったバリエーションが増えていきます。
ここで重要なのは、「コンテナらしく見えるかどうか」と「建築として安全であるか」は、まったく別の話だということです。見た目がコンテナっぽくても、法規や構造がグレーなら危険ですし、逆に外観からはコンテナに見えなくても、中身は建築用新造コンテナのしっかりした構造体、というケースも増えてきました。日本のコンテナハウスの歴史は、「コンテナっぽさ」と「建築としての品格・安全性」のバランスを探る試行錯誤の歴史でもあります。

第6章|セルフビルドとモジュール建築への流れ
近年の流れとして見逃せないのが、「セルフビルド」と「モジュール建築」との接続です。建築用新造コンテナによって「構造体」という難しい部分が工場で完結した結果、ユーザー側は
・内装仕上げ
・設備の一部
・デッキや外構
といった「触れても危険度の低い領域」に、安心して手を出しやすくなりました。
・セルフビルド前提のコンテナハウス商品
・建築確認付きのコンテナモジュールを、自作キット的に扱う仕組み
・プロが骨組みをつくり、ユーザーが仕上げを楽しむ二段構えのシステム
こうした商品・システムが生まれてきたのも、建築用新造コンテナという“安全なモジュール”が存在するからこそです。コンテナハウスの歴史は、「プロだけの建築」から「ユーザーも参加する建築」へ、建て方のあり方まで含めて変えてきたとも言えます。
第7章|これからの日本のコンテナハウスはどこへ向かうのか
では、この先、日本のコンテナハウスはどこに向かうのでしょうか。歴史を踏まえると、次のような方向性が見えてきます。
・建築用新造コンテナをベースにした、より高度なモジュール建築
・木造・RC・既存建物とのハイブリッド化の加速
・断熱性能・耐震性能・省エネ性能を高めた「高性能コンテナハウス」
・離島や山間部、災害復興エリアなどでのインフラ建築としての活用
・セルフビルドや共同ビルドなど、ユーザー参加型の建築プロセスの広がり
過去を振り返ると、「コンテナで何ができるか」という発想から、「コンテナだからこそできる建築は何か」という問いへ、ゆっくりとシフトしてきたことがわかります。
歴史を知ることは、コンテナハウスの可能性を狭めるためではなく、どこまで広げていいのか、その“安全な範囲”を知るための地図のようなものです。

おわりに|歴史を知ることは、次の一棟を賢く選ぶことにつながる
中古コンテナ改造の黎明期、
違法コンテナ問題とグレーゾーンの時代、
建築用新造コンテナの登場、
用途の広がりとデザインの多様化、
セルフビルドやモジュール建築への流れ。
日本のコンテナハウスの歴史は、決して一直線ではありませんでした。試行錯誤とトラブルと工夫の積み重ねの中から、今の「コンテナ建築」がかたちづくられています。だからこそ、これからコンテナハウスを建てようとする人にとって、この歴史を軽くでも知っておくことには、大きな意味があります。
・何を選べば安全で、長く付き合えるのか
・どこからが危険なショートカットなのか
・どんな会社やシステムが、この歴史を正面から受け止めてきたのか
そうした視点でコンテナハウスを眺めていくと、表面的な見た目や価格だけでは見えなかったものが、すっと立ち上がってきます。その上で、あなたはどんなコンテナハウスをつくりたいのか。どんな歴史の上に、次の一棟を重ねていくのか。このコラムが、その問いを立てるための、ひとつの入口になればうれしく思います。

Q&A 10選|日本のコンテナハウスの歴史と今後
Q1. 日本でコンテナハウスが注目され始めたのはいつ頃ですか?
A1. 日本でコンテナハウスという言葉が広く知られ始めたのは、おおよそ1990年代後半から2000年代にかけてです。きっかけは、海上輸送用の中古コンテナを倉庫や簡易事務所、小屋として改造して使う動きでした。当時はまだ「正式な建築物」というより、「面白い箱もの」「安い小屋」として扱われることが多かった時期です。
Q2. 初期のコンテナハウスは、どのような使われ方をしていたのですか?
A2. 初期のコンテナハウスは、農業用倉庫、現場事務所、仮設の休憩小屋など、比較的「仮設」「簡易建築」に近い用途が中心でした。中古の海上コンテナをそのまま置き、窓や扉を切って使うシンプルな改造が多く、建築基準法に基づいた本格的な設計や確認申請は、まだ一般的ではありませんでした。
Q3. なぜ「違法コンテナ」「グレーなコンテナ建築」というイメージが生まれたのですか?
A3. 海上コンテナは、もともと貨物輸送用として設計された「工作物」です。そのまま建物として使うと、基礎や構造、安全性、用途地域などが建築基準法上の建築物として整理されないケースが多くありました。その結果、行政側から指導が入ったり、「これって違法建築では?」という話題が出るようになり、「コンテナ建築=グレー」というイメージが一時期広がりました。
Q4. 建築用新造コンテナが登場した背景は何ですか?
A4. 中古コンテナ改造の限界が見えてきたことで、「最初から建築物として設計されたコンテナが必要だ」という発想が生まれました。構造計算ができる骨組み、建築基準法に対応した部材、JIS鋼材、耐震・耐風・積雪の検討などを前提にした「建築用新造コンテナ」が開発され、コンテナハウスは単なる改造小屋から、本格的な建築物としてのステージに進化していきました。
Q5. 日本のコンテナハウスの歴史には、建築基準法との関係がどう影響していますか?
A5. 日本は地震大国であり、建築基準法が比較的厳しい国です。そのため「箱が丈夫だから大丈夫」というだけでは通用せず、構造区分、耐震性能、耐火性能、避難経路などを、他の建築と同じレベルでクリアする必要があります。この法規対応をきちんと進めたことが、日本のコンテナハウスを単なるブームではなく、「建築の一ジャンル」として育ててきた大きな要因です。
Q6. 海外のコンテナハウスの歴史と、日本のコンテナハウスの歴史は何が違いますか?
A6. 海外では、比較的ゆるやかな法規や広い敷地を背景に、コンテナハウスが「安くてカッコいい実験住宅」として広がった面があります。一方、日本では、敷地条件が厳しく、地震・台風・積雪などの自然条件もシビアなため、「デザインだけでなく、建築基準法をどうクリアするか」が大きなテーマでした。この違いが、日本独自の建築用新造コンテナや構造システムの発展につながっています。
Q7. 日本のコンテナハウスの歴史の中で、「建築用新造コンテナメーカー」の役割は何ですか?
A7. 建築用新造コンテナメーカーは、中古コンテナ改造の時代から一歩進めて、「建築確認申請を前提としたコンテナ建築」の土台をつくってきました。構造フレーム、ディテール、部材仕様、法規対応などを標準化することで、設計事務所や施工会社がコンテナハウスに取り組みやすくなりました。その結果、住宅、宿泊施設、ゴルフ場施設、工場ユニットなど、用途の裾野が広がっていきました。
Q8. コンテナハウスの歴史を知ることで、今の計画にどんなメリットがありますか?
A8. コンテナハウスの歴史を知ることで、「どこからどこまでが安全で、どこにリスクがあるのか」を理解しやすくなります。中古コンテナ改造の限界や、違法建築になりがちなポイント、建築用新造コンテナが生まれた理由を知ることで、今の計画で何を重視すべきかが見えてきます。結果として、見た目だけでなく、長く安心して使えるコンテナ建築を選びやすくなります。
Q9. これからの日本のコンテナハウスは、どのように進化していくと思われますか?
A9. これからのコンテナハウスは、「ただの箱」から「システムとしての建築」へ、さらに進化していくと考えられます。建築用新造コンテナをベースにしたモジュール建築、他構造(木造・RC・既存建物)とのハイブリッド、エネルギー性能や断熱性能を高めた高性能コンテナハウスなどが増えていくでしょう。歴史を踏まえたうえで、「コンテナで何ができるか」ではなく「コンテナだからこそできる建築」を追求する流れが強まっていくはずです。
Q10. 日本のコンテナハウスの歴史のなかで、IMCAのような会社はどんな位置づけになりますか?
A10. コンテナハウスがまだ「特殊な建物」と見なされていた時代から、建築用新造コンテナを自社開発し、建築確認ベースで数百棟の実績を積み重ねてきたメーカーは多くありません。そうした会社は、日本のコンテナハウスの歴史の中で、「グレーな改造コンテナから、正統派の建築用コンテナ建築へ」という転換を支えてきたプレーヤーと言えます。単に箱を売るのではなく、「コンテナ建築とは何か」を最前線で問い続けてきた存在です。
記事の監修者
大屋和彦
九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。
