コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.07.30

コンテナの法規制(10連載)

コンテナハウスを取り巻く法規制をわかりやすく解説!_9/9最終章

第9章
これからのコンテナ建築と法制度のゆくえ— 制度と創造の“あいだ”に立つ、未来の箱たち —


■「コンテナ建築」はまだ始まったばかり
まず大前提として――
コンテナ建築は、今なお“未開拓”で“未定義”なジャンルです。
木造のように百年単位の文化があるわけでもなく、鉄骨造のように規格化・制度化が進み切っているわけでもなく、その“特殊性”ゆえに、法制度の中では「例外」として扱われがち。
でもだからこそ、いま、制度の側が少しずつ“コンテナ建築のために”動き出しているのです。


■近年の法制度・行政対応の変化
建築用新造コンテナの誕生(=制度への橋渡し)
これまでは、輸送用中古コンテナを「どうにか建築にできないか?」と苦心する時代でした。
しかし、“最初から建築用”として製造された新造コンテナが登場したことで、構造計算・設計・確認申請が一気に現実的に。

建築行政も「柔軟対応」への転換期
かつては、「コンテナは基本、建築不可。以上!」だった行政も、
建築士・開発者・建築確認機関との連携によって、「所定の基準を満たせば、建築物として扱える」「性能評価に基づいた審査を行う」というスタンスに転換してきています。
特に、以下のような場面で顕著:防火・準防火地域での設計対応、建築士による構造説明資料の活用、材料性能表示・製作履歴の提出。つまり、行政が“例外”ではなく“前例”を受け入れる流れが始まっているのです。


■これからのコンテナ建築に必要な3つの進化
①【制度的進化】カテゴリの明確化
現行の建築基準法には、「コンテナ建築」という明文化はありません。今後は以下のような動きが期待されます:新造コンテナ建築の構造規格ガイドラインの策定
プレファブ・ユニット建築との法的位置づけ統合
簡易型から高機能型までの多層カテゴリ化「コンテナ=仮設」ではなく、「コンテナ=可変型恒久建築」としての法的再定義が求められる。


②【文化的進化】“住まい”の価値観シフト
かつて、「住まい」は“立派な家”がステータスだった時代から、今では「自分らしく、気軽に、柔らかく住まう」スタイルへと変化しています。
移住/2拠点/ミニマルライフ
サステナブル/循環型社会への意識
土地に縛られない「場づくり」の発想
この価値観に、コンテナ建築はぴたりとフィットする。鉄の箱は、時代が求めた“移動可能で、拡張できる家”そのもの。


③【産業的進化】設計〜流通〜施工の統合
今後は、建築用新造コンテナの流通・加工・施工を、
より効率的かつ安全に行う“一貫プラットフォーム”の整備が進んでいくでしょう。
コンテナ建築専用CADモジュール、製造時点での性能保証・構造情報の統合化、物流/搬入/施工マニュアル全国共通化。
この流れに乗れる企業・設計士こそが、次世代の建築業界の主役となる。


■「仮設」から「可変」へ。コンテナ建築が目指す未来
これまで、「コンテナ=仮設」というレッテルを貼られてきたこの建築様式。けれど実際には、コンテナの真の価値は「可変性と拡張性」にあります。必要な時に必要な分だけつなぐ、時間や家族の変化に合わせてカスタムする。移動/再配置が可能な空間資産となる。これは、建築という概念を「固定物」から「動的な空間装置」へと進化させる試みでもあります。


■建築×法制度の“共進化”が未来を拓く。
制度は、時に建築の自由を縛るものと捉えられがちです。でも、それは半分だけ正しくて、半分は誤解です。法制度があるからこそ、安全で快適な空間が保たれる。法制度に沿ってこそ、資産価値として認められる。そしてその制度は、“現場の声”によって育っていく。コンテナ建築の未来は、法制度との対話の中にある。制度が壁になるのではなく、道標となる時代が、確実に来ています。


■まとめ:「未来の建築」は、すでに始まっている。
この連載の冒頭で、私たちはこう問いかけました。コンテナハウスは、“建築物”なのか?答えは明確です。はい、コンテナハウスはれっきとした建築物です。しかも、次の時代を切り拓く、新しい建築文化の先駆けなのです。法の網の目をくぐるのではなく、制度と共に育ち、コストだけでなく、物語と思想を内包し、鉄の箱に、人の暮らしと夢を詰めこむ。これからの日本、これからの地球にとって、コンテナ建築こそ、もっとも軽やかで、もっとも力強い選択肢になる。


おわりに
あなたがいま目の前にしている「鉄の箱」は、ただの金属の容器ではありません。それは、**未来を住まうための“はじまりの器”**です。そしてその器は、制度の中で、文化の中で、静かに、けれど確かに、“建築”としての居場所を手に入れつつある。ようこそ、これからの住まいへ。ようこそ、未来のコンテナ建築の世界へ。

現在の「コンテナ建築」は「コンテナ状態」という「プレファブリケーション状態」における構造の確認ではなく、パーツとしてそれぞれの構造部材が組み合わされる一般建築と同じ状態での構造計算の確認になっています。もちろんその方法は間違いではないのでいいのですが、この連載シリーズでは「やがてコンテナ状態での構造体」として構造の確認もできるよいうになってこそ、本当の未来がひらけるという書き方になっています。


記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。