コンテナハウスコラム
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リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。
更新日:2025.07.13
コンテナの法規制(10連載)
コンテナハウスを取り巻く法規制をわかりやすく解説!第9章
第9章 これからのコンテナ建築と法制度のゆくえ
— 制度と創造の“あいだ”に立つ、未来の箱たち —
もくじ
■「コンテナ建築」はまだ始まったばかり
まず大前提として、コンテナ建築は、今なお“未開拓”で“未定義”なジャンルです。木造のように百年単位の文化があるわけでもなく、鉄骨造のように規格化・制度化が進み切っているわけでもなく、その“特殊性”ゆえに、法制度の中では「例外」として扱われがち。でもだからこそ、いま、制度の側が少しずつ“コンテナ建築のために”動き出しているのです。

■近年の法制度・行政対応の変化
✅ 建築用新造コンテナの誕生(=制度への橋渡し)
これまでは、輸送用中古コンテナを「どうにか建築にできないか?」と苦心する時代でした。しかし、“最初から建築用”として製造された新造コンテナが登場したことで、構造計算・設計・確認申請が一気に現実的に。
この建築用コンテナの登場は「株式会社デベロップ」が日本で初めて作ったのです「デベロップ方式」。当社のものより早い登場でした。当社のものは「IMCA方式」で、柱の形と柱脚のアンカーの取り方が違っていました。その他の後発の会社はこのどちらかの方式を真似ていることが多いですが、どちらもPAT.があるのを他社は知らないようですが大丈夫でしょうかね。
「ラーメン構造のモジュラーユニット」としての「構造体」にしたことと、輸送時の「緊結ジョイント」のデザインが、「海洋輸送」および「建築基準法」のどちらのレギュレーションもクリアできる緊結部のデザインとすることに腐心したのです。後発の方々はそんな事に関しては「真似」をしてクリアしてきていますから、そのような「苦労話」なしで過ごしてきていますので「本質」の議論ががどこであったかなど知りもしないのです。
また、IMCA方式は梁もJIS認定材の「型鋼材」ですが、型鋼材ではない「角鋼管」系のものは、元鋼材はJIS材だったとしても、中国製のものは冷鉄の加工のJIS認定工場はなくSTKR400のJIS材は存在しない、という事実を知っている方は、ここでコンプライアンスをクリアするコンテナを作り出すことに苦労をしたデベロップとIMCA以外の方々は知らないのが現実でしょう。
そして、結果的に今では、「建築用」と「輸送用」のコンテナは、もはや“別の生き物”と認識すべきフェーズへ来ました。

✅ 建築行政も「柔軟対応」への転換期
かつては、「コンテナは基本、建築不可。以上!」だった行政も、上記のような建築用コンテナの開発者と、建築士・建築確認機関との連携によって、「所定の基準を満たせば、建築物として扱える」「性能評価に基づいた審査を行う」というスタンスに転換してきています。特に、以下のような場面で顕著:防火・準防火地域での設計対応、建築士による構造説明資料の活用、材料性能表示・製作履歴の提出。つまり、行政が“例外”ではなく“前例”を受け入れる流れが始まっているのです。

■これからのコンテナ建築に必要な3つの進化
①【制度的進化】カテゴリの明確化
現行の建築基準法には、「コンテナ建築」という明文化はありませんので、ラーメン構造のフレームを工場で組み上げた「モジュールユニット」としての認識と、そういう製品としての構造評価をしているのが現状です。
今後は以下のような動きが期待されます:
新造コンテナ建築の構造規格ガイドラインの策定、プレファブ・ユニット建築、モジュラー建築との法的位置づけの統合。簡易型から高機能型までの多層カテゴリ化「コンテナ=仮設」ではなく、「コンテナ=可変型恒久建築」としての法的再定義が求められる。
②【文化的進化】“住まい”の価値観シフト 一般の利用者の立場からの話になります
かつて、「住まい」は“立派な家”がステータスだった時代から、
今では「自分らしく、気軽に、柔らかく住まう」スタイルへと変化しています。
移住/2拠点/ミニマルライフ/サステナブル/循環型社会への意識/土地に縛られない「場づくり」の発想。
この価値観に、コンテナ建築はぴたりとフィットするのです。鉄の箱は、時代が求めた“移動可能で、拡張できる家”そのものなのです。
③【産業的進化】設計〜流通〜施工の統合
今後は、建築用新造コンテナの流通・加工・施工を、より効率的かつ安全に行う“一貫プラットフォーム”の整備が進んでいくでしょう。コンテナ建築専用CADモジュール。製造時点での性能保証・構造情報の統合化。
物流/搬入/施工マニュアルの全国共通化。このような流れを作る「業界団体」の構想は進んでいます。そしてその構想に乗れる企業・設計士こそが、次世代の建築業界の主役となるでしょう。
■「仮設」から「可変」へ。コンテナ建築が目指す未来
これまで、「コンテナ=仮設」というレッテルを貼られてきたこの建築様式。けれど実際には、コンテナの真の価値は「可変性と拡張性」にあります。必要な時に必要な分だけつなぐ時間や家族の変化に合わせてカスタムする。移動/再配置が可能な空間資産となる。
これは、建築という概念を「固定物」から「動的な空間装置」へと進化させる試みでもあります。かつて日本の著名建築家グループ(黒川紀章、菊竹清訓など)が進めた「メタボリズム」の思想を受け継いているとも言えます。
■建築×法制度の“共進化”が未来を拓く
制度は、時に建築の自由を縛るものと捉えられがちです。でも、それは半分だけ正しくて、半分は誤解です。法制度があるからこそ、安全で快適な空間が保たれる。法制度に沿ってこそ、資産価値として認められる。そしてその制度は、“現場の声”によって育っていく。コンテナ建築の未来は、法制度との対話の中にある。制度が壁になるのではなく、道標となる時代が、確実に来ています。

■まとめ:「未来の建築」は、すでに始まっている
この連載の冒頭で、私たちはこう問いかけました。コンテナハウスは、“建築物”なのか?答えは明確です。
はい、コンテナハウスはれっきとした建築物です。しかも、次の時代を切り拓く、新しい建築文化の先駆けなのです。法の網の目をくぐるのではなく、制度と共に育ち、コストだけでなく、物語と思想を内包し、鉄の箱に、人の暮らしと夢を詰めこむ。これからの日本、これからの地球にとって、コンテナ建築こそ、もっとも軽やかで、もっとも力強い選択肢になる。

おわりに
あなたがいま目の前にしている「鉄の箱」は、ただの金属の容器ではありません。それは、『未来を住まうための“はじまりの器”』です。そしてその器は、制度の中で、文化の中で、静かに、けれど確かに、“建築”としての居場所を手に入れつつある。
ようこそ、これからの住まいへ。ようこそ、未来のコンテナ建築の世界へ。

記事の監修者

大屋和彦
九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。
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