建築を読む、時間を感じる。技術と詩の交差点へ

一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
技術、哲学、感性、地域——それぞれの断片を物語としてつなぎ
建築という旅のページをめくるように読める"連載アーカイブ"です

更新日:2025.12.11

コンテナハウスカフェの「売り」をつくる おすすめメニューと物語で差別化する方法

コーチング_第2章_準備編_009_あなたの「売り」は何ですか?

はじめに お客様はいつも「この店の売り」を探している
コンテナハウスでカフェを開業すれば、建物だけでも十分目立ちます。赤いコンテナ、デッキ、山の景色。けれど一度席についてメニューを開いたお客様の頭の中には、たった一つの疑問が浮かびます。「で、この店のいちばんの売りは何?」ここで「メニューに載っているものは全部おすすめです」と答えてしまった瞬間、あなたの店はその他大勢に埋もれます。せっかくコンテナハウスという武器を手に入れたのに、肝心の中身が平均点だと本当にもったいない。カフェの生死を分けるのは、実はこの「おすすめをどう語るか」という、とても小さな会話から始まります。

「どれもおすすめです!」が最低な答えである理由 

お客様が「おすすめは何ですか?」と聞く時、それはメニューがつまらないからではなく「この店らしい一皿」を知りたいからです。「どれもおすすめです」は、裏返すと「この店には特に語るべき個性がありません」と宣言しているようなもの。オーナーの立場からすれば「どれも手を抜かずに作っています」という誇りかもしれませんが、お客様から見れば「自信のある一品も決めきれていない店」にしか映りません。マーケティングの視点で言えば、「ウリがない=選ばれる理由がない」ということ。コンテナがどれだけかっこよくても、注文の瞬間にこの残念な会話が交わされてしまうと、リピートへの期待値は一気に下がってしまいます。

まずは「店としての推しメニュー」を決める 

最初のステップはシンプルです。何でもかんでも「おすすめ」と言うのをやめて、「この店といえばコレ」という推しメニューを決めること。たとえば「自家焙煎の深煎りブレンド」「山の上の朝に合うレモンケーキ」「コンテナの赤に負けないベリーソーダ」など、ストーリーごとセットで決めておきます。ポイントは、原価や作りやすさだけで選ばないこと。あなたが心から好きで、「これなら毎日説明していても飽きない」と思えるメニューをウリに立てる方が、長く続けたときに説得力が増します。メニュー表でもアイコンやコメントで「店主のいち押し」「このコンテナカフェの看板メニュー」と明示し、視覚的にも伝えておきましょう。

状況に合わせて「おすすめを変えられる店」は強い

次のステップは、「誰に対しても同じ一品をすすめる」のをやめることです。理想は「お食事ならこちら、軽くつまみたいならこちら、甘いもの気分ならこれ」というふうに、お客様の状態に合わせておすすめを変えられること。たとえば「しっかり食べたいなら、山歩きのあとにも人気のコンテナプレートがおすすめです。軽く一息なら、自家焙煎コーヒーとシナモンロールのセットが一番出ていますよ」という具合です。こうした提案ができると、「この人は自分の今日の気分をちゃんと見てくれている」と感じてもらえます。メニュー設計の段階で「ガッツリ系」「おやつ系」「カフェタイム向け」などの役割を決めておき、スタッフ全員がそのマッピングを共有しておくと会話がとてもスムーズになります。

スタッフが3ヶ月で「売り」を語れる仕組みをつくる 

飲食業界では、アルバイトスタッフの平均在籍期間は驚くほど短いと言われます。だからこそ「属人的なセンス」だけに頼らない仕組みづくりが重要です。おすすめトークをスタッフ任せにするのではなく、「この質問が来たらこう返す」という例文をシートにまとめ、トレーニングの中でロールプレイングを繰り返します。特にコンテナハウスのカフェでは、建物の仕組みや眺望もウリになるので「うちのデッキ席は夕方の時間帯がいちばんきれいです」など、空間とメニューをセットで提案できるフレーズも用意しておくと良いでしょう。「売りを語れるスタッフ」を3ヶ月で育てるという覚悟があれば、入れ替わりの激しい現場でもお店の個性はぶれません。

チェーン店との決定的な違いは「あなたがブランド」であること 

フランチャイズのチェーンカフェが目指すのは、「誰がやっても同じ品質」です。本部が決めたメニューとマニュアルに従って、淡々とオペレーションを回していくことが使命であり、個人の個性はあまり求められていません。一方、あなたのコンテナハウスカフェは真逆です。個人経営である限り、「あなた自身」と「あなたの価値観」がそのままブランドになります。「なんとなく雰囲気のいい店」ではなく、「あの店主のあの一言が好きで通っている」という状態をどれだけつくれるかが勝負。その入り口が「おすすめはどれですか?」と聞かれた時の、あなたの一言なのです。

コンテナハウスカフェならではの「売り」のつくり方 

コンテナハウスでカフェをやるなら、空間そのものも立派な売りになります。例えば「赤いコンテナと山の緑を眺めながら飲むモーニングコーヒー」「海風を感じるデッキ席専用メニュー」「コンテナの外壁と同じ赤をイメージした季節のドリンク」など、建物とメニューを連動させると世界観が一気に立ち上がります。また、断熱や気密をしっかりとった快適な室内をアピールできるのも建築用新造コンテナならではの強みです。「見た目は無骨だけど、中は思った以上に居心地がいいね」というギャップをどう演出するかを考えることも、コンテナカフェの売りづくりの大事なポイントです。

究極の売りは「あなたのファン」をつくること 

最終的に、お客様はメニューだけを好きで通ってくれるわけではありません。その裏には必ず「この店の空気が好き」「この人が淹れてくれるから飲みたい」という感情が存在します。本日のコーチの結論はシンプルです。あなたは個人経営のカフェです。法人格であっても本質は同じ。生き残るためには「あなたのファン」を増やすしかありません。その第一歩が「この店のおすすめは何ですか?」と聞かれた時に、迷いなく、自分の言葉で、自分の売りを語れるかどうか。コンテナハウスという器に、あなたの物語とおすすめメニューをしっかり詰め込んで、今日も一人一人の前に差し出していきましょう。

 ウリのある店_Q&A_10選

子テーマ1 売りとコンセプトを決める
Q1. コンテナカフェの「売り」はメニューだけで決めるべきですか?
A1. 売りはメニューだけでなく、空間・ロケーション・店主の人柄まで含めた「体験のセット」で考えるのがおすすめです。たとえば「山の上の赤いコンテナで飲む朝の一杯」「夕焼けに染まるデッキで過ごす15分」といった具体的なシーンに、看板メニューを紐づけるとコンセプトの解像度が一気に上がります。

Q2. まだ自分のカフェのコンセプトがぼんやりしています。売りはいつ決めるべきでしょうか?
A2. 内装工事が始まる頃までには、「誰に、どんな気分で過ごしてほしい店なのか」を一文で言えるようにしておきたいところです。そこが定まれば、メニュー構成もおすすめの言い方も自然と絞られてきます。逆にコンセプトがフワフワのままオープンすると、売りも定まらず、発信内容もブレて集客が不安定になりがちです。

子テーマ2 おすすめメニューとスタッフ教育


Q3. 看板メニューを一つに絞るのが怖いです。いくつまでなら「売り」として許容範囲ですか?
A3. 「これも売り、あれも売り」ではお客様が迷ってしまうので、軸になるのはメイン1〜2品+シーン別のおすすめ数点くらいが現実的です。「コーヒーならこれ、スイーツならこれ、ランチならこれ」というふうにカテゴリー別に一つずつ決めておくと、お客様にもスタッフにも分かりやすくなります。

Q4. スタッフが「どれもおすすめです」と答えてしまいます。どう改善すればよいですか?
A4. 抽象的な注意ではなく、具体的なトークの型を渡してあげることが大切です。「おすすめを聞かれたら、まずお客様の状況を一つ質問してから、AかBを提案する」というルールにし、ロールプレイングで練習します。売りメニューのストーリーもセットで共有し、「なぜこれをすすめるのか」を理解してもらうと、言葉に説得力が出てきます。

Q5. スタッフの在籍期間が短くて、売りを浸透させる前に辞めてしまいます。対策はありますか?
A5. まず「売りに関する情報を全部頭の中に入れてもらう」のをやめ、マニュアル・チェックリスト・ポップなど紙と仕組みに落とし込むことです。その上で、初期研修の中に「おすすめトーク」の時間を必ず組み込み、1週間以内に最低限のフレーズが言えるようにします。入れ替わりがあっても、仕組みがあれば店としての売りは継続していきます。

子テーマ3 チェーンとの差別化とファンづくり


Q6. チェーン店のような均一サービスと、個人店の個性、どちらを優先すべきですか?
A6. コンテナハウスカフェという個性的な器を選んだ時点で、あなたの強みは「均一さ」ではなく「個性」です。もちろん基本的な品質の安定は必要ですが、その上で「この人のいるこの店だから来たい」と思ってもらうことを最優先に考えた方が、中長期的には強いブランドになります。

Q7. 「店主のファンになってもらう」と言われると少し照れます。どこまで自分を出していいのでしょうか?
A7. なんでもかんでも自分語りをする必要はありませんが、「なぜこの場所でコンテナカフェをやろうと思ったのか」「このメニューにどんな思い出があるのか」など、店の背景にあるストーリーは積極的に出した方がファンが付きやすくなります。自慢話ではなく「共有したい気持ち」として語れば、うるさくは感じられません。

Q8. 売りをつくるために、他店を真似するのはアリですか?
A8. 完全コピーはおすすめしませんが、「何に惹かれたのか」を分析し、自店のコンテナハウスとコンセプトに合わせて翻訳するのは大いにアリです。例えば、都心の人気カフェの「モーニング文化」に惹かれたなら、「山の上の朝コンテナモーニング」として自分の土地と景色に合わせて再構成します。そのプロセスの中で、あなたならではの売りが浮かび上がってきます。

Q9. 売りを変えたくなった時、どのタイミングで切り替えるべきでしょうか?
A9. 常連さんが十分についている看板メニューをいきなり消すのはリスクが高いので、「季節限定」「新しい定番候補」といった形でテストするのが安全です。反応が良ければ徐々に比重を移し、SNSや店頭ポップでストーリーも同時に発信します。売りは一度決めたら一生固定ではなく、店の成長とともに更新していくものだと考えてください。

Q10. 自分の店の売りが本当に伝わっているかどうか確認する方法はありますか?
A10. 一番わかりやすいのは、お客様の口から出てくる言葉を観察することです。「あの深煎りコーヒーの店」「山の上の赤いコンテナのケーキ屋さん」など、あなたの想定と近いフレーズが自然に会話やSNSに出てきていれば、売りは伝わっています。もし違うイメージで語られているなら、メニュー名やポップ、スタッフのトークを見直して、「伝えたい売り」と「実際の印象」をもう一度すり合わせていきましょう。