建築を読む、時間を感じる。技術と詩の交差点へ
一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
技術、哲学、感性、地域——それぞれの断片を物語としてつなぎ
建築という旅のページをめくるように読める"連載アーカイブ"です
更新日:2025.12.06
14_CAFE開業コーチ
カフェ開業コーチング第2章 準備編 5/10B-005 店の立地をイメージしてみよう
もくじ
カフェを開くことが夢なんです
「カフェを開くのが夢なんです」
そう話してくれる人は本当に多いです。とても素敵なことですし、その言葉の裏側には、きっとあなたなりのカフェの情景が浮かんでいるはずです。窓辺で本を読むお客さん、コンテナハウスの小さなカウンターでコーヒーを飲む常連さん、休日の昼下がりに、ふらっと立ち寄る親子連れの後ろ姿。
そのイメージの中には、必ず「お客さん」がセットで存在しています。では、そのお客さんたちは、いったいどんな場所に通ってきてくれるのでしょうか。
今回のテーマは「店の立地」。
あなたが描いたカフェの映像と、現実にカフェを建てる場所を、そろそろきちんと結びつけていくタイミングです。

開業は「夢のゴール」ではない
コンテナハウスでの店づくりは、準備そのものが楽しいプロセスです。コンテナ本体の仕様を決めて、外観デザインを考えて、内装をどうするか悩み、メニューを試作して、SNSで発信して…。そして、いよいよオープンの日。「ついに店ができた!」という達成感に包まれるでしょう。ただ、経営者としてひとつだけ忘れてほしくないのは、その瞬間は「ゴール」ではなく「スタートライン」に立っただけ、という事実です。
これから何年間も、借入を返しながら、同じ場所に通い続ける。
その舞台となるのが「立地」です。機械や内装であれば、あとから入れ替えることができますが、「場所」だけはそう簡単には変えられません。だからこそ、立地選びは、あなたのカフェ人生を左右する大きな決断になります。
立地のパターンを一度ぜんぶ並べてみる
実際に相談を受けていると、候補になる立地のパターンは本当にバラバラです。例えば、こんな感じです。
・実家の庭先やガレージを改築して始めたい
・自宅の近くで、手頃な物件を探したい
・どうしてもこの街、このエリア、この通りでやりたい(表参道のここ、南青山のここ、など)
・予算に合わせて探していたら、気づけばかなりの田舎まで来てしまった
・たまたま通りがかった場所に、良さそうなベーカリーの居抜き物件が出ていた
・わざわざ来てもらう店にしたいので、山奥や辺ぴな場所に建てたい
・生活優先なので、どうしても海のそば、山の中、空気のきれいな場所がいい
・親の持っている空き土地を使わせてもらえそうだ
・前の職場の先輩が店をたたむので、そのまま引き継いでほしいと言われている
・風水で「ここが良い」と言われた場所がある
・周りにカフェが全然ないエリアで一番手になりたい
・何が何でも駅前で勝負したい
・学校の前で、帰り道や部活帰りの需要を狙いたい
・スーパーのインショップとして出店したい
・どこでもいい、俺の店ならどこでもやれる
まだまだパターンは無限にあります。どのパターンにも可能性がありますが、同時にリスクもあります。ここで大事なのは、「誰がその場所に毎日通い、責任を負うのか」という視点です。
答えはシンプルで、「あなた」です。

立地は誰のものでもなく「あなたの決断」
親が「この土地を使えばいい」と言ってくるかもしれません。配偶者が「ここなら子育てもしやすい」と勧めてくるかもしれません。尊敬する先輩が「俺がやっていた店をそのまま引き継いでくれ」と頼んでくるかもしれません。風水師に「ここ以外で開業すると不幸になります」と言われることだってあるかもしれません。
アドバイスはどれも、参考になります。ですが、そこでコンテナハウスのカフェを何年も続けていくのは、他の誰でもなく、あなた自身です。だからこそ、条件を冷静に整理したうえで、頭を冷やし、深呼吸してから「ここでいこう」と指さす必要があります。周りの声に流されて選ぶのではなく、「開業するのは自分だ」という前提を、立地の判断軸の中心に据えましょう。
どうせ決めるなら、「駅そばにチェーンしかないから、ここでやればそこそこいけるかも」ではなく、「このエリアのカフェは、うちが基準になります」くらいの気持ちで立ってほしいところです。
事業理念と「土地の性格」を結びつける
立地の具体的な選び方は、すでに考えた「事業理念」とセットで考える必要があります。
あなたの理念は、どんな人たちに、どんな時間を提供するものなのか。
例えば、
・地域の日常に寄り添うコンテナカフェ
・観光客向けのビュースポット的コンテナカフェ
・ワーケーションや二拠点生活者向けのコンテナカフェ
理念によって、「ふさわしい土地の性格」は変わります。とはいえ、土地の性格などと言われてもピンと来ない、という方も多いでしょう。
そんなときにおすすめなのが、「地域のスーパーの品揃えを見に行く」という方法です。

6 スーパーを見ると、地域が見えてくる
地域性を手っ取り早くつかみたいなら、まずはそのエリアのスーパーに行ってみてください。
見てほしいのは、食品売り場、特にスパイスコーナーと酒類の棚、生鮮食品の肉・魚あたりです。
同じ日本でも、地域によって
・どんな肉がよく売れているか
・魚はどの程度のラインナップか
・スパイスや調味料のバリエーション
・ワインや日本酒、ビールの品揃え
などが、意外なほど違います。
複数のスーパーがあるエリアなら、なおさらおもしろいです。スーパー同士が棲み分けをしているので、「ここは価格志向」「ここは高品質志向」といった層の違いも見えてきます。
買い物かごをのぞけば、家族構成や料理スタイルも何となく見えてきます。これらはすべて、「この地域にどんな暮らしの人が多いか」というヒントです。コンテナハウスのカフェが、どのポジションに立つのか。その土地で、どんな人たちにとっての「いつもの店」になりたいのか。
スーパーの棚は、あなたの事業理念と土地を結びつける、意外と頼もしい材料になります。

人通りと家賃のバランスをどう考えるか
地域性のイメージがつかめてきたら、次は「立地の物理的な条件」です。
特に重要なのは、人通りと家賃のバランスです。
地域密着型のコンテナカフェであれば、基本的に「生活道路」に面していることが大きな強みになります。
あなたの店の前を通る人の数が、売上にかなり正直に反映されるからです。例えば、店の前の通行量が
1日1000人より2000人のほうが、売上ポテンシャルはシンプルに約2倍になります。
そのうえで店そのものの魅力が高ければ、さらに上乗せされていきます。もちろん、すべての人が「たまたま通りかかったから」入るわけではありませんが、多くの人にとっては「通りがかれる場所」「入りやすい場所」であることが大前提です。
人通りが多い場所は、当然のように家賃も高くなります。
例えば、こんなイメージです。
・家賃30万円の場所で、月商250万円を目指す
・家賃10万円の場所で、月商150万円を目指す
数字だけ見ても、どちらが正解とは言えません。
業態や客単価、営業時間、オペレーション体制によって、適したバランスは変わります。
ただし目安としては、「家賃は想定日売上の最大3倍まで、できれば2倍までに抑える」というラインを覚えておいてください。日売上が8万円なら、家賃は16〜24万円が目安、といった具合です。
郊外型・ロードサイド型コンテナカフェを考えるなら
コンテナハウスの強みは、郊外やロードサイドにも柔軟に設置しやすいことです。駐車場付きの郊外型カフェとしての展開も、もちろん有力な選択肢です。この場合も、「車の数が多ければそれで良い」という単純な話ではありません。時速80キロで車がビュンビュン流れているバイパス沿いでは、
「カフェに寄ろう」というモードになりにくいのは、感覚的にも分かるはずです。
重要なのは、
・生活幹線道路に面しているか
・減速しやすい場所か(信号、交差点、商業集積など)
・駐車場への出入りがしやすいか
・「次もまた寄ろう」と思える導線か
といったポイントです。
コンテナハウスだからこそできる郊外型の立地戦略を、事業理念と照らし合わせながら組み立てていきましょう。

本日のコーチング B-005
立地は、あとからやり直しにくい、重たい決断です。だからこそ、次のポイントを押さえて選んでください。
・人通りが多いこと
・生活道路に面していること
・家賃や土地代が売上規模と見合っていること
・あなたの事業戦略・事業理念と、地域性が一致していること
・車でも徒歩でも「立ち寄りやすい場所」であること
そして何より、あなた自身が、その場所で何年も通い続ける自分の姿をイメージできるかどうか。
まるで自分がその街の住人になったつもりで、通勤時間帯、昼、夕方、休日と、時間帯を変えながら街を観察し、丁寧に「ここでいこう」と決めてください。
コンテナハウスのカフェは、場所と結びついたとき、はじめて本当の色を放ちます。
立地・場所選び編のQ&A 厳選10選
Q1.コンテナハウスのカフェに向いている立地って、ズバリどんな場所ですか?
A.あなたの事業理念によって変わりますが、共通して言えるのは「生活道路に面していて、人の流れが見込める場所」です。地域の日常を支える店にしたいなら住宅街と幹線道路の間、観光客向けなら観光導線上、ワーケーション向けなら滞在拠点の近くなど、狙う客層と生活動線が交差する場所が適性の高い立地になります。
Q2.親の土地を使えば家賃がかからないので、一番お得ですよね?
A.家賃がかからないのは大きなメリットですが、「お金がかからない=ベストな立地」とは限りません。人通りやアクセスが悪すぎれば、そもそも売上が伸びません。また、親の土地に甘えることで経営判断が甘くなるリスクもあります。「メリット」と「立地としての実力」の両面を冷静に見て判断しましょう。
Q3.周りにカフェがない場所はチャンスですか? それともリスクですか?
A.どちらの可能性もあります。周りにカフェがないのは、「競合がいない」という意味ではチャンスですが、「カフェ需要そのものが薄い」「そもそも人通りが少ない」という場合もあります。周辺のスーパー、コンビニ、飲食店の数や客層を観察し、「日常的に外食やカフェを利用する文化があるか」を確認することが重要です。
Q4.駅前と郊外、どちらがコンテナカフェに向いていますか?
A.どちらにも可能性があります。駅前は人通りが多く、家賃も高い。郊外は家賃を抑えやすく、駐車場付きのゆったりした空間がつくりやすい。コンテナハウスの機動性を活かすなら、郊外の生活幹線道路沿い、住宅街とのバランスがよいエリアも有力です。重要なのは「事業理念」「ターゲット」「家賃と売上のバランス」をセットで見ることです。
Q5.立地の良し悪しを見極めるために、まず何を調べればいいですか?
A.おすすめは次の三つです。
1)周辺のスーパーやドラッグストア、飲食店の品揃え・価格帯・客層
2)平日と休日、時間帯ごとの人通りと車の流れ(生活道路かどうか)
3)家賃(または地代)と、想定日売上とのバランス
これだけでも、「この土地がどんな人たちの生活圏なのか」「カフェに使うにはどの程度のポテンシャルがあるのか」がかなり見えてきます。
Q6.家賃は売上の何パーセントくらいまでが目安ですか?
A.一つの目安として、「家賃は想定日売上の最大3倍まで、できれば2倍まで」に抑えたいところです。月次で考える場合も、売上に対する家賃比率が高くなりすぎると、他の経費を圧迫します。高家賃エリアを狙うなら、それを上回る客単価や回転率、ブランド力をどうつくるかをセットで考える必要があります。
Q7.車通りが多い国道沿いの物件は、やはり有利でしょうか?
A.必ずしも有利とは限りません。時速60〜80キロで車が流れるバイパス沿いは、速度が速すぎて「ちょっと寄ろう」という気持ちになりにくいからです。信号や交差点の近く、商業施設の集まるエリア、減速しやすい場所など、「車が止まりやすいポイント」に近いかどうかが、ロードサイド型コンテナカフェの立地では重要になります。
Q8.居抜き物件(前テナントの設備付き)をそのまま使うのはアリですか?
A.条件次第で十分アリです。ベーカリーや別のカフェの居抜きで設備が残っている場合、初期投資を大きく下げられる可能性があります。ただし、「なぜ前の店が撤退したのか」という理由を必ず確認してください。立地に難があったのか、家賃が高すぎたのか、単に経営の問題だったのか。理由によっては、同じ立地で再チャレンジしても同じパターンになりかねません。
Q9.風水や占いで場所を決めるのは、やめた方がいいですか?
A.信じるかどうかは個人の自由ですが、「風水だけ」で決めるのはおすすめしません。人通り、生活道路、家賃、地域性などの現実的な条件をまずしっかり見たうえで、最終候補が複数あるときに「背中を押す材料」として取り入れる程度がちょうどいいバランスだと思います。地に足のついた立地判断をしたうえで、プラスアルファとして活用するイメージです。
Q10.今日からできる「立地感覚を養うトレーニング」はありますか?
A.あります。今住んでいる街で構わないので、気になるエリアを一つ決めて、次の三つをやってみてください。
1)そのエリアのスーパーとコンビニを回り、品揃えと客層を観察する
2)朝・昼・夕方・休日の、通行量と人の雰囲気をメモする
3)「ここにコンテナカフェを置いたらどうなるか」を想像し、良い点と不安な点を3つずつ書き出す
これをいくつかのエリアで繰り返すと、「土地を見る目」が格段に鍛えられます。
