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一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
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更新日:2025.12.05

14_CAFE開業コーチ

コンテナハウスのカフェ開業コーチング|第2章 準備編 3/10B-003 事業理念を一度ちゃんと確かめよう

コンテナハウスでカフェを開きたい、という相談を受けるとき、かなりの確率で「コンテナが好きだから」「カフェの雰囲気が好きだから」という言葉が最初に出てきます。それ自体はとても良いスタートですが、開業準備が進み、資金、立地、メニュー、人材、営業時間などの具体的な決断が増えてくると、「好きだから」だけでは判断が難しくなる場面が必ず訪れます。そのときに効いてくるのが、あなた自身の事業理念です。「どうしてカフェをなさろうと思ったのですか?」と人から問われたときに、迷わず口から出てくる言葉。それがあなたの事業理念であり、コンテナハウスであれ、路面店であれ、どんなスタイルのカフェにも共通して必要な土台になります。

このコーチングシリーズの中では、「事業理念」「事業目標」「事業戦略」「戦術」という言葉を何度も使います。似たような言葉に見えますが、開業準備のプロセスをスムーズに進めるためには、それぞれの違いを一度整理しておくことがとても大切です。ここではまず、それぞれの言葉の位置づけを分かりやすくしながら、自分なりの事業理念を明文化するところまでイメージしてみましょう。

事業理念とは何か──「自分は何のためにカフェをやるのか」 

事業理念とは、あなたのカフェ事業の根底にある「なぜ」を一文で表したものです。コンテナハウスのカフェであれば、「なぜコンテナハウスという器を選んだのか」「この場所で、どんな人に、どんな時間を届けたいのか」といった出発点の考えが事業理念の核になります。事業理念は、悩んだとき、迷ったときに必ず立ち戻る場所であり、メニューを変えるかどうか、値上げや値下げをするか、営業時間をどうするか、人を雇うか一人でやるか、といった具体的な判断を下すときの「憲章」となるものです。

ただし、ここでありがちなのが、立派すぎて自分でも本気で信じ切れていない理念を掲げてしまうことです。世界平和や巨大な社会改革のような抽象的な言葉は、確かにかっこよく聞こえますが、毎日の仕込みや掃除、レジ締めに追われる現場で、あなたを現実的に支えてくれるかどうかは別の話です。大切なのは「自分が心から納得できるか」「日常の仕事に落とし込んだときに違和感がないか」という視点です。背伸びをしすぎず、でも芯のある言葉を探しましょう。

コンテナハウスのカフェを想定した事業理念の例を挙げてみます。
例1:コンテナハウスという小さな器を使って、日常のすぐそばにほっと一息つける居場所をつくり、地域の人の暮らしに小さな変化と安らぎを届ける。
例2:遊休地や古い倉庫街にコンテナカフェをつくることで、まちに新しいにぎわいと出会いの場を生み出し、地域全体の魅力をもう一度掘り起こしていく。

どちらも、「どうしてカフェをやるのか」「なぜコンテナハウスなのか」という問いに対する、自分なりの答えになっています。

事業目標とは何か──理念を現場レベルにブレイクダウンする

事業目標とは、その事業理念を実現するための「具体的な照準」です。理念だけでは方向性は見えても、今日何をすべきか、どのくらい売上を目指すのか、といった行動のレベルには降りてきません。そこで、事業理念を現実の数字や状態に落とし込んだものが事業目標です。

先ほどの事業理念を例にすると、次のような事業目標が考えられます。
事業理念:コンテナハウスという小さな器を使って、地域の人の日常に安らぎと変化を届ける。
事業目標:オープンから3年以内に、半径1km圏内の常連客を100人つくり、平日昼間に一人でもふらっと立ち寄れる「居場所カフェ」として認知される状態をつくる。

あるいは、
事業理念:コンテナカフェを通じて、遊休地に新しいにぎわいと出会いを生み出し、まちの魅力を磨き直していく。
事業目標:オープンから2年で、地元食材を使った10品前後のフードメニューを育て、テイクアウト需要も取り込みながら、年間売上〇〇〇万円の「地域食堂的コンテナカフェ」として定着させる。

ここで重要なのは、「この事業目標は何のためにやっているのか?」と問われたときに、すっと上の階層である事業理念に戻れる関係になっているかどうかです。事業目標は、事業理念という大きな方向性を、現実に届く射程距離まで下ろしたものだと考えてください。

事業戦略とは何か──目標を達成するための大きな道筋

事業戦略とは、事業目標を達成するための「方法論」や「大きな道筋」を指します。誰に、何を、どのように届けるか、どの順番で育てていくか、といった設計図のような位置づけです。コンテナハウスのカフェであれば、「近隣の会社員と住宅街の住民、どちらをメインターゲットにするか」「朝・昼・夜のどの時間帯に強みをつくるか」「イートインとテイクアウトの比率をどう設計するか」などが戦略レベルのテーマになります。

例えば、事業目標が「半径1km圏内の常連客100人をつくる居場所カフェ」であれば、短期戦略として「オープンから1年まではモーニングとランチを中心に、近隣住民と会社員に認知してもらうことに集中する」、長期戦略として「2年目以降は、夜の軽食とアルコールを少し取り入れ、地域の小さなイベントやワークショップを定期開催しながら、コミュニティのハブとして育てていく」といった描き方ができます。

ここでポイントになるのは、「短期戦略」と「長期戦略」を分けて考えることです。コンテナハウスのカフェは、箱がコンパクトなぶん「ついやれることを全部詰め込みたくなる」危険もありますが、短期間であれもこれもやろうとすると、オペレーションが破綻しやすくなります。短期戦略で「まずはここから」と絞り込み、長期戦略で「将来こうなっていたい」という姿を描き、その間を少しずつ橋渡ししていくイメージを持ちましょう。

戦術とは何か──明日からの具体的な行動レベル

戦術とは、事業戦略を「具体的なアクション」にまで落とし込んだものです。今日やること、来週までにやること、来月までに終わらせること、という時間軸で見える行動のリストだと考えてください。

たとえば、短期戦略が「モーニングとランチを強化して近隣の認知を取る」であれば、戦術の例としては、「平日限定のモーニングセットを3種類つくる」「近隣の会社や工場に手書きのメニュー表を配る」「インスタグラムで『今日のランチ』を毎日更新する」「半径500m圏内の住宅にオープンチラシをポスティングする」などが挙げられます。ここまで細かく落ちると、あとは「やるか・やらないか」の問題です。

事業理念 → 事業目標 → 事業戦略 → 戦術という四つの階層が、一本の線でつながっているとき、コンテナハウスのカフェ開業は非常にスムーズに進みます。逆に、どこか一段が抜け落ちていると、「なんとなく忙しいのに、何を目指しているのか分からない」という状態に陥りがちです。

本日のコーチングまとめ

本日のコーチ B-003 のポイントは、「事業理念」「事業目標」「事業戦略」「戦術」という四つの言葉を、カフェ開業の文脈で明確に分けて理解すること、そしてすべてのスタート地点となるのが事業理念である、ということです。事業理念は、あなたの中の「憲章」のようなものです。重すぎる必要はありませんが、自分が本気で信じられる一文を、一度じっくり時間をとって書き出してみてください。その一文が、この先の資金計画、メニュー構成、スタッフ採用、営業時間設定、コンテナハウスのプランニングなど、あらゆる判断の基準になっていきます。

コンテナハウスのカフェ開業コーチング Q&A 厳選10選

Q1.カフェ開業に事業理念は本当に必要ですか?
A.必要です。特にコンテナハウスのように小さな器で勝負するカフェは、「何を削って何に集中するか」の判断が非常に重要になります。そのときに、単なる好き嫌いではなく、「この店は何のために存在するのか」という事業理念があると、決断の軸がぶれにくくなります。銀行との融資相談や、家族やパートナーに事業を説明するときにも、事業理念があると話が通りやすくなります。

Q2.事業理念は、最初から完璧な一文にする必要がありますか?
A.完璧な一文でなくて構いません。むしろ、最初から完璧を目指すと書けなくなります。自分の言葉で素直に書き出し、開業準備や営業を続ける中で、少しずつ手直ししながら育てていくくらいの感覚で十分です。大切なのは、頭の中だけで考え続けるのではなく、一度、紙や画面に「見える形」にすることです。

Q3.事業理念とカフェのコンセプトはどう違いますか?
A.事業理念は「なぜこの事業をやるのか」という根本的な理由で、コンセプトは「どんな世界観・体験をこの店で提供するか」という表現のデザインに近いものです。例えば「地域の人の日常に小さな安らぎを届ける」という事業理念が先にあり、それを具体的な空間やメニュー、価格帯、ビジュアルに落とし込んだものがコンセプトになります。

Q4.コンテナハウスの特徴は、事業理念にどう関係しますか?
A.コンテナハウスを選んだ理由は、そのまま事業理念の重要なヒントになります。「遊休地を活用したい」「最小限の面積で濃い体験を届けたい」「建築用新造コンテナという新しい建築文化を広めたい」など、コンテナハウスを選んだ背景を深堀りすると、そのカフェならではの事業理念が見えてきます。

Q5.事業目標は数値を必ず入れた方がいいですか?
A.可能な範囲で数値を入れることをおすすめします。売上や客数、常連客の人数、営業日数、席数など、数値を含めた事業目標を置くことで、進捗が判断しやすくなります。ただし、最初から複雑な表をつくる必要はありません。まずは「3年でこうなっていたい」というシンプルな目標を一つ決めるだけでも、行動が変わります。

Q6.事業戦略と戦術の違いがいまいち分かりません。
A.事業戦略は「誰に何をどう届けるか」という大きな方針や道筋で、戦術はそれを実現するための具体的な行動です。例えば「近隣の会社員にランチで選ばれる店になる」が戦略だとしたら、「平日ランチの提供時間を11:30〜14:00にする」「テイクアウトボックスを開発する」「会社にメニューを配布する」といった個別の施策が戦術です。

Q7.小さなカフェにも長期戦略は必要ですか?
A.必要です。コンテナハウスのカフェは投資規模が比較的小さいとはいえ、数年単位で回収していくビジネスです。1年目に何に集中し、2〜3年目で何を広げていくのかという長期戦略がないと、その場その場で流行りに流されてしまい、店の軸がぶれてしまいます。長期戦略は、一枚の紙に「3年後こうなっていたい」というイメージを書き出すところからで構いません。

Q8.事業理念は途中で変えてもいいのでしょうか?
A.変えて構いません。ただし、気分でコロコロ変えるのではなく、実際にお客様と向き合ったり、コンテナハウスのカフェを運営する中で気づいたことを反映させていく形が望ましいです。最初の理念を否定するのではなく、「現場で磨かれたバージョン」にアップデートしていくイメージです。

Q9.融資用の事業計画書に書く「経営理念」と、このコラムでいう事業理念は同じですか?
A.基本的には同じです。ただし、金融機関向けに書く経営理念は、文章として少し整えられた表現になることが多いでしょう。このコラムでまず考えてほしいのは、融資用にきれいな言葉を書くことではなく、自分自身が納得し、日々の判断に使えるリアルな事業理念です。そのうえで、必要に応じて対外的な表現に整えていけば問題ありません。

Q10.最初の一歩として、何から始めればいいですか?
A.最初の一歩は、とてもシンプルです。「なぜ自分はカフェをやりたいのか」「なぜコンテナハウスなのか」を、一人で静かな時間をとって、手で書き出してみてください。箇条書きで構いません。その中から、一番しっくりくるフレーズを組み合わせて、一文の事業理念をつくります。それがこのコーチング B-003 のゴールであり、次の「事業目標」「事業戦略」に進むためのスタートラインになります。