コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.08.12

コンテナ宿泊施設考(連載5)

「コンテナ宿泊施設構築完全ガイド|持続可能でおしゃれな宿泊体験のすべて」(連載4/5)

宿は「寝床」から「舞台」へ

「コンテナコテージ」という言葉を聞いて、最初に浮かぶのは“泊まる場所”だろう。
でも、僕らが目指すのはそこじゃない。
宿は舞台だ。泊まることは、その舞台でのシーンのひとつに過ぎない。
新造の建築用コンテナは、その舞台を自由に設計できる。
シーンごとに景色を変え、体験を仕込むことができる。
そして、宿泊者はその物語の主役になる。

食の体験──舌と記憶を同時に満たす 

食は宿泊体験の中でも最も強烈に記憶に残る。
これは感覚的にも科学的にも証明されていて、嗅覚と味覚の記憶は長期保存されやすい。
事例:海辺の「漁師直送BBQ」
千葉の外房にあるコンテナコテージ「HORIZON BOX」では、朝6時に漁師が獲った魚がそのまま宿に届く。
夕方、デッキで炭火を起こし、殻付きのホタテやハマグリを焼く。
バターを落とすと潮と香りが混ざり、ゲスト全員が一瞬で笑顔になる。
1泊あたりの飲食売上は宿泊料金の35%を占め、これだけで利益率を押し上げている。
事例:山間の「薪窯ピザナイト」
長野の森にある「こもれびラボ」では、ゲストが生地をこね、薪窯で焼き上げるピザ作りを提供。
子供も大人も一緒になって笑いながら作業する光景は、宿のInstagramで最も「いいね」が付く投稿だ。
この投稿経由での予約は月平均15件。

自然を感じるアクティビティ

コンテナコテージは自然と切り離せない。
新造コンテナなら屋上やデッキを自由に設計できるため、自然を感じるアクティビティとの相性は抜群だ。
星空観察:屋上にリクライニングチェアを置き、ブランケットを用意。
アウトドアサウナ:水風呂は川や海を利用、薪の香りが空気に漂う。
焚き火セッション:マシュマロを焼く子供、ギターを弾く大人、静かに炎を見つめる人。
ある宿では、焚き火台を囲む時間の満足度がアンケートで95%を超え、滞在の口コミにも必ず登場するという。

季節ごとのイベント設計

季節は最大の演出家だ。
それぞれの季節に合わせて、宿は違う顔を見せる。
春:桜とワインの夕べ
デッキから見える桜並木の下で、地元ワイナリーの試飲会を開催。
参加費は1人2,000円だが、売上よりも口コミ効果が大きく、翌年の春は予約が前年同月比150%になった。
夏:花火と海
海水浴場まで徒歩3分の宿では、夜に手持ち花火と線香花火大会。
写真映えと体験の両方を兼ね備えたイベントで、Instagramのストーリーズ投稿率は80%以上。
秋:紅葉ハイキングと焚き火
近隣の山までハイキングし、夕方からは宿で焚き火。
秋の冷たい空気に包まれながら飲むホットワインは格別だ。
冬:雪と温泉送迎
雪国の宿では、近隣温泉までの送迎付きプラン。
雪見風呂体験が人気で、冬の稼働率は平均70%を維持。

地域とのコラボレーション

宿が地域と繋がれば、体験は無限に広がる。
漁師がガイドする「早朝漁船ツアー」
農家が教える「収穫体験と野菜ランチ」
陶芸家による「器づくりワークショップ」
こうしたコラボは、宿の付加価値を上げるだけでなく、地域経済への貢献にもなる。


6. ワーケーションの可能性
働き方が多様化した今、ワーケーションは狙い目だ。
新造建築用コンテナの防音性と断熱性を活かし、室内に高速Wi-Fiとワークデスクを設置すれば、都市部からの長期滞在者を呼び込める。
滞在データによれば、ワーケーション利用者は通常の宿泊客より滞在日数が平均2.4倍長く、平日の稼働率を底上げしてくれる。

SNSと口コミの連鎖 

体験はシェアされて初めて拡散力を持つ。
宿専用のハッシュタグを作る
写真映えするスポットを館内に複数設ける
ウェルカムカードや小物にロゴや宿名を入れる
ある宿では、チェックアウト時にポラロイド写真を1枚プレゼントしている。
ゲストはその写真をSNSにアップし、自然な宣伝になる。

ユーモアで記憶を固定する

笑いは感情記憶を強化する。
森の中のある宿では、トイレのドアに「野生動物は鍵をかけられません」と書かれている。
これを撮影してSNSに上げる宿泊者が後を絶たない。

数字で見る体験型価値の威力


BBQプランを導入した宿は、平均単価が**15〜25%**アップ。
季節イベントの開催で、リピーター率は**20〜35%**増加。
SNSシェア促進策で、新規予約の**40%**が口コミ経由に。
体験は「売上」と「集客」の両面に効く。

まとめ──体験の設計は宿の命

コンテナコテージは、新造の建築用コンテナという自由な器だからこそ、体験を自在に組み込める。
そしてその体験は、泊まる以上の価値を生み出す。
「泊まってよかった」ではなく、「あの時間をもう一度味わいたい」と言わせる宿。
それこそが、体験型宿泊の到達点だ。
次章では、この価値を数字に変えるビジネスモデルを解説する。
投資家や事業者の目線で、収益と持続可能性を見ていこう。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。