コンテナハウスコラム

四半世紀以上にわたり現場に立ち
研究し続けてきた私たちだから語れる
リアルな“コンテナハウスの深堀り話”です。

更新日:2025.08.11

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コンテナコテージの第一印象は「外観」で決まる

宿泊者が最初に出会うのは、玄関ではない。
もっと手前、敷地の入り口から視界に飛び込む外観の印象だ。
その瞬間の感情は、滞在中ずっと続くBGMのように心に響き続ける。
自然に溶け込むタイプのコンテナコテージは、外壁を無垢材や焼杉板で覆い、周囲の景観と調和する。
海辺なら淡いブルーやホワイト、森の中ならダークブラウンやモスグリーンがしっくりくる。
一方で、ランドマーク型デザインは真逆だ。
あえて原色で塗装し、遠くからでも視認できる存在感を放つ。
旅人はその色を目印にやってくる。
新造の建築用コンテナだからこそ、開口部や外壁素材を最初から設計に組み込み、美観と耐久性を両立できる。
輸送用コンテナ改造ではこうはいかない。

外壁素材と色彩の心理効果

外壁の素材や色は、滞在者の感情に直接作用する。
木材:ぬくもり、安心感、自然との一体感
金属パネル:モダン、シャープ、都会的な印象
塗り壁仕上げ:柔らかさ、落ち着き、工芸的な雰囲気
色彩心理も重要だ。
白は清潔感、青はリラックス、赤はエネルギーを与え、黒は高級感を演出する。
実際に、森の中の黒塗装コテージは「秘密基地感がある」と口コミで広がった。

内装デザイン──木と光の魔法

コンテナハウス宿泊施設の内装は、木材と照明で決まると言っても過言ではない。
壁と天井に木を使えば、鉄骨の硬さが消え、空間にやわらかさが生まれる。
照明は直射よりも間接光がベスト。
ベッド横の小さなブラケットライトや、足元を照らすフットライトが夜の時間を特別にする。
さらに、照明計画は写真映え=SNS映えにも直結する。
宿泊者がスマホで撮った写真が美しく見える光環境は、宣伝力としても強力だ。

家具選びと配置の黄金比 

家具は「使いやすさ」「見た目」「移動のしやすさ」のバランスが重要。
一棟貸しコテージでは、ダイニングテーブルは広めに、椅子は動かしやすく軽量なものを。
造作家具もおすすめだ。
新造の建築用コンテナなら、最初から家具の寸法を空間に合わせて作り込める。
これによりデッドスペースがなくなり、空間の広がり感が増す。

季節ごとの演出と「記憶の残し方」

:テラスに花鉢を置き、窓辺には薄いレースカーテン
:全開口の窓+デッキにハンモック
:室内にランタン風の照明、焚き火スペースの演出
:薪ストーブ、ふかふかのブランケット、雪見窓
宿泊体験は五感で記憶される。
特に香りは記憶の定着率が高い。
木材の香り、焚き火の匂い、季節の空気を意識した設計は、リピーターを増やす。

 写真映えを設計する 

現代の宿泊施設にとってSNSは広告塔だ。
InstagramやTikTokで「泊まってみたい」と思わせる写真は、意図的に作り込める。
バックに空や海、森が映り込む窓
夜は照明が外に漏れて温かく見える外観
朝日や夕日の光が差し込む位置にベッドを配置
実際にSNS経由の予約率は高く、写真一枚が予約を動かすことも珍しくない。

 ユーモアで心をほぐすデザイン

ある宿では、部屋番号を数字ではなく「海」「森」「空」にしている。
別の宿では、ベッドサイドに「この枕、持ち帰らないでね(オーナー泣いちゃいます)」と書いた小札がある。
こうした小さなユーモアが、口コミで話題を呼ぶ。

 内外の動線設計 

コンテナ宿泊施設の動線は、滞在者の行動パターンを想定して設計する。
玄関からリビング、リビングからデッキ、デッキからBBQエリアへの移動をスムーズに。
新造の建築用コンテナなら、入口の位置や通路幅も自由に設定できる。

 結び──デザインは「泊まりたい」を形にする

外観は「来たくなる」理由を、内装は「もう一度来たい」理由を作る。
そしてその両方が揃ったとき、宿泊者はその施設のファンになる。
コンテナコテージの設計は、単なる箱づくりではない。
それは、滞在者の心に残る舞台演出そのものだ。

 実例1:海辺の「波待ちの宿」

房総半島の先端に建つ「波待ちの宿」。
新造の建築用コンテナをベースに、外壁はホワイトとターコイズブルーのツートン。
遠くからでも波の向こうに映えるその姿は、サーファーたちの目印にもなっている。
室内はウッドパネルで覆われ、リビングの窓からはサンセットが真正面に見える設計。
夜は窓を開けて波の音をBGMにワインを開ける。
オーナー曰く、「ここは波の博物館みたいなもんです」。

実例2:森の中の「こもれびラボ」

長野県の森に囲まれた一棟貸しコテージ。
外壁は焼杉板で、時間が経つごとに黒が深くなり、苔と落ち葉の中に溶け込む。
設計の肝は「光の採り方」。
天窓と南面の大きな窓を計算して配置し、朝はやわらかい木漏れ日が床に揺れる。
宿泊者の中には「スマホよりも床を見ていた時間が長かった」という人も。

実例3:雪国の「白い箱」

北海道の山奥にある二棟連結型コテージ。
屋根は片流れにして雪を自然に落とす設計、積雪荷重に耐える梁構造を採用。
室内は床暖房+薪ストーブで、マイナス15℃の夜でも半袖で過ごせる。
外には露天の五右衛門風呂があり、雪見風呂が名物。
「風呂から出た瞬間に凍るタオル」が、宿泊者のSNS定番ショットになっている。

素材選びのこだわり

建築用コンテナは、骨格がしっかりしているからこそ素材の自由度が高い。
床材:オークやパインの無垢材、竹フローリング
壁材:木パネル、漆喰、珪藻土、金属パネル
天井:梁を見せるか隠すかで印象が変わる
オーナーがよく言うのは、「床と照明にはお金を惜しまないこと」。
滞在者は必ず床を歩き、照明の下で時間を過ごすからだ。

音のデザイン

デザインと聞くと見た目ばかりに意識が行きがちだが、音の演出も重要だ。
新造コンテナは防音性が高く、外の騒音をほとんど遮断できる。
その上で、室内に響く音を計算する。
木の床を歩く足音
薪ストーブの燃える音
雨が屋根を叩く音
これらはBGMよりも強い感情を宿泊者に残す。

宿泊者動線の実験

ある施設では、開業前にスタッフが泊まり込み、朝から晩まで動線を検証した。
玄関からキッチンまでの距離、デッキへの出入り、シャワーと寝室の行き来。
動き動線は、快適さを倍増させる。
逆に失敗例として、デッキへの出入りが寝室経由になってしまい、夜のBBQ後にベッドが油臭くなる事件も。
こういう「やらかし話」も、次の設計改善のネタになる。

夜の演出


夜は宿の本領発揮の時間だ。
外観は間接照明で輪郭を浮かび上がらせ、暖色の光が漏れる窓で安心感を演出する。
デッキにはソーラー式の小さなランタンを点在させ、足元を安全にしながらロマンチックな雰囲気を出す。
写真映えはもちろん、宿泊者が帰宅後も思い出を鮮明に語れる。

 ユーモアの効いた小技

冷蔵庫の中に「飲んだら追加で補充してね(ウソです、無料です)」と書いたメモ
洗面台の鏡に「本日も最高にカッコイイです!」の文字
宿の案内板を漫画風にして子供連れのファミリーが喜ぶ仕掛け
小さな笑いは、宿のファン作りに効く。

 結び──デザインは愛され続ける宿の武器

コンテナコテージは、設計と演出で「泊まる理由」を無限に生み出せる。
新造の建築用コンテナが持つ構造的な自由度は、デザインの想像力を制限しない。
外観で惹きつけ、内装で心をつかみ、演出で記憶に刻む。
それがリピーターを生み、口コミで広がる宿になる。
次章では、この魅力的な宿泊空間がどのようにして体験型の価値を提供し、集客とブランドを築くのかを掘り下げていく。

記事の監修者

大屋和彦

大屋和彦

九州大学 芸術工学部卒 芸術工学士
早稲田大学芸術学校 建築都市設計科中退。
建築コンサルタント、アートディレクター、アーティスト、デザイナー。

1995年よりコンテナハウスの研究を開始。以後30年間にわたり、住宅、商業施設、ホテル、福祉施設など300件以上のプロジェクトに携わる。特にホテルをはじめとする宿泊施設型コンテナハウスの設計・施工に圧倒的な実績を誇る。商業施設、住宅分野にも多数の実績があり、コンテナハウス建築業界で幅広く活躍している。