建築を読む、時間を感じる。技術と詩の交差点へ
一棟のコンテナハウスの裏には、いつも「人」と「時間」がある
技術、哲学、感性、地域——それぞれの断片を物語としてつなぎ
建築という旅のページをめくるように読める"連載アーカイブ"です
更新日:2025.07.25
14_CAFE開業コーチ
CAFE_コンテナ開業のためのコーチからの50の手紙_3/50
A-003 経営者感覚を身につけていこう
──カフェの“船長”になる覚悟、できていますか?
カフェを開業するというのは、「自分の夢をカタチにする」ことです。
しかし同時にそれは、「経営という荒波に乗り出す」ことでもあります。
もしかしたら、あなたは今まで飲食店でアルバイトをしたり、社員として働いていた経験があるかもしれません。たくさんの現場を見て、ノウハウもそれなりに身につけてきた──。だから、ある程度やれる自信はある。そう思っている方も多いでしょう。
でも、ここでひとつ、はっきり言わせてください。
「経営者」としてカフェを始めるというのは、今までの延長線ではありません。まったく別物です。
もくじ
経営者とは、「全部を決める人」である
スタッフとして働いていた頃は、誰かの指示に従っていればよかった。
でも、あなたがオーナーになると、それが一変します。
最初にあなたの元に飛び込んでくるのは、意外と「つまらない問題」です。
たとえば──
「トイレットペーパーが切れました」
「レジのレシートロールがありません」
「テイクアウト容器が足りません」
そんなこと、現場で考えてなんとかしてよ……と言いたくなるかもしれません。
でも、誰もがあなたに聞いてくるのです。なぜなら、あなたが店の責任者だから。
こういった「こまごました問題」に対して、都度指示するのは時間の無駄。
だからこそ、あらかじめ“ルール”を決めておく必要があります。
「これはこういう時にこうする」
「これが足りなくなったらこうやって補充する」
「これはこのスタッフの仕事範囲」
こういった判断の枠組みを用意しておくことで、あなたは本来やるべき仕事──つまり、「創造的な戦略」に集中できるようになります。
あなたはカフェの“船長”である
経営者とは、日々のオペレーションの舵を取る「船長」であり、
明日の航路を決める「航海士」であり、
目的地を指さす「地図の持ち主」でもあります。
お店を運営するということは、
スタッフを導き
利益を確保し
商品を磨き
成長の道筋を描き
お客様に価値を提供し続ける
という、非常に多面的な仕事を日々同時進行でこなすことです。
「俺はコーヒーを淹れていたいだけなのに……」
そう言いたくなる瞬間もあるかもしれません。
でも、それだけでは店は回らないし、続かないのです。
スタッフとの“距離感”が運命を分ける
そして、もう一つ大事なポイントがあります。
それは、経営者とスタッフの「距離感」です。
スタッフに好かれたい、仲良くやりたい──その気持ちはとてもよくわかります。
でも、近づきすぎると、判断力が鈍り、決断のスピードが落ちます。
たとえば、こんな場面。
「このやり方じゃだめだ」と思っているのに、言えない。
「これは自分で判断してくれ」と思っても、相手は頼ってくる。
「ルール」を徹底したいのに、情に流されてしまう。
その結果、店の流れがグズグズになり、
最悪の場合、「あの人、ちょろいよね」とスタッフから見透かされてしまいます。
経営者は、スタッフの“味方”でありながら、同時に“管理者”でもあります。
線引きは明確に。期待すべきところ、任せるべきところを冷静に判断しながら、「人を育てる立場」に立たなければなりません。
あなたの責任で「利益」を出さなければならない
そして何よりも大事なのは、店としての「利益」を出すこと。
「利益」とは、単に自分が儲けるという意味ではありません。
スタッフにきちんと給料を払う
設備を整える
原材料を仕入れる
自分自身の生活を支える
すべての源になるのが、利益です。
しかも、それを「成長させていく」ことが求められます。
成長できなければ、スタッフの給与も増えず、あなた自身のモチベーションも落ちていく。
最悪の場合、「ただの維持運転」に陥り、カフェは縮小していきます。
経営者の仕事とは、「人の生活」を背負うこと
経営者とは、お金を稼ぐ人、店を動かす人である以前に、
「関わるすべての人の生活を背負う人」でもあります。
あなたの考えで動き、あなたの商品で利益を生み、
それによって人に給料を払い、人生を支える。
その重みを引き受けられる人だけが、「経営者」になれるのです。
今日のコーチング003
店がスタートした瞬間、あなたは「経営者」です。
あなたが舵を取る責任者であり、方向を決める船長。
日々のオペレーション、スタッフ育成、利益確保、成長戦略……
そのすべてを背負って前に進む覚悟が、これからのカフェ経営には求められます。
プレッシャーに押しつぶされそうになる時もあるでしょう。
でも、それを乗り越えられた時にしか見えない「景色」があります。
そして、それを喜びと感じられるかどうかが、経営者としての資質なのです。
Q&A 厳選10選(A-003 経営者感覚を身につけていこう)
Q1.なぜカフェ開業には「経営者感覚」がそんなに重要なのですか?
A.カフェ開業は、自分の夢を形にすることと同時に、経営という荒波に船を出すことだからです。アルバイトや社員として現場を経験していても、経営者になると「お店全体の方向性を決める」「利益を出す責任を負う」「人の生活を背負う」というまったく別次元の役割が発生します。現場の一員として働く感覚のまま出航してしまうと、決断が遅れたり、利益の確保やスタッフ育成がおろそかになり、店が長続きしにくくなります。
Q2.スタッフ経験は長いのですが、それだけではなぜ不十分なのですか?
A.スタッフ時代は、基本的に「与えられたルールの中でベストを尽くす」立場でした。しかしオーナーになると、そのルールをつくる側に立たなければなりません。誰がどの時間に働くのか、メニュー構成をどうするのか、いくらで売るのか、どこまでコストをかけるのか、赤字になったらどう立て直すのか。これらはすべて経営者の判断です。現場スキルは武器になりますが、「決める側の視点」を持たないと舵取りができず、店全体が迷走しやすくなります。
Q3.経営者は「全部を決める人」とありますが、具体的にはどんなことまで決めるのですか?
A.メニューや価格帯といった目に見える部分だけでなく、営業時間や定休日、スタッフの採用基準、シフトの組み方、仕入れ先、設備投資の優先順位、クレーム対応の方針、SNSでの発信トーンなど、カフェ運営に関わる全方位的な決定を担います。さらに、トイレットペーパーの補充ルールやレジロールのストック場所、テイクアウト容器の発注タイミングのような一見つまらないことも、放置すると日々のオペレーションに響きます。これらを「仕組み化」するのが経営者の仕事です。
Q4.スタッフから細かいことまで聞かれてしまうのが不安です。どう対処すればいいですか?
A.一つひとつにその場対応していると、あなたの時間と集中力が奪われてしまいます。大切なのは、同じ種類の質問が繰り返されたタイミングで「ルールとして言語化する」ことです。足りなくなったら誰がどう補充するか、どこまでが誰の担当かをはっきり決めて、口頭だけでなくメモやマニュアルに残しておく。こうすることで、現場が自走しやすくなり、あなたはメニュー開発や数字の管理といった本来の経営者の仕事に集中できます。
Q5.スタッフと仲良くしたい一方で、距離感が難しそうです。どこに線を引けばよいですか?
A.スタッフと良好な関係を築くことは大切ですが、「友達になる」のと「信頼される上司になる」のは別物です。線引きの目安は、自分の判断やルールを遠慮なく伝えられるかどうかです。言うべきことを言えなくなるほど距離が近くなってしまうと、ルールが守られなくなり、店全体のリズムが崩れます。スタッフの味方でありながら、期待すること、任せること、注意することを冷静に伝えられる距離感を意識しましょう。
Q6.「利益を出す責任」と言われると身がすくみます。利益をどう捉えればいいですか?
A.利益は「自分の懐を肥やすためのもの」ではなく、「店と人を生かし続けるための燃料」と捉えるとイメージしやすくなります。スタッフに給料を払い、原材料を仕入れ、設備を保守し、店を少しずつ成長させていくための源泉が利益です。利益がなければ、給料も上げられず、投資もできず、やがて店は痩せていきます。だからこそ、経営者は利益に向き合うことから逃げず、「どうやって生み出し、どう配分するか」を考え続ける必要があります。
Q7.数字が苦手で、売上や利益を考えると気が重くなってしまいます。どうすればいいでしょうか?
A.経営者になるなら、「数字から逃げない」練習は避けて通れませんが、高度な会計知識が最初から必要なわけではありません。売上、原価、人件費、家賃、光熱費など、主要な数字の意味と関係性をシンプルに押さえるところから始めてください。毎日・毎週・毎月のざっくりした収支を見る習慣をつけるだけで、経営感覚は少しずつ育ちます。苦手だからこそ、早い段階で向き合い始めるのがコツです。
Q8.経営者に向いている人・向いていない人の違いは何だと思いますか?
A.絶対的な正解はありませんが、一つの視点として「自分で決めることから逃げないかどうか」が大きな分かれ目です。向いている人は、情報を集めたうえで最終的に自分で判断し、その結果に責任を取る覚悟がある人。向いていない人は、最後まで誰かに決めてほしい、判断の責任を持ちたくないという気持ちが強い人です。技術や経験は後から積み上げられますが、「自分で舵を取る覚悟」は、どうしても経営者側に必要な要素になります。
Q9.人の生活を背負う重さが怖くて、一歩が踏み出せません。どう考えたらよいでしょうか?
A.怖さを感じること自体は、とても健全です。むしろ何も感じないほうが危険なくらいです。そのうえで大事なのは、「いきなり大船団を率いようとしない」こと。最初は自分一人、もしくは少人数から始め、スモールスタートで責任の重さに慣れていく方法もあります。また、自分一人で全部背負うのではなく、税理士や先輩経営者、信頼できるパートナーといった「相談できる相手」を持つことも、心理的な支えになります。
Q10.今日からできる「経営者感覚を身につけるためのコーチング課題」は何ですか?
A.おすすめは、次の二つをノートに書き出してみることです。
1)もし自分が明日このカフェのオーナーになったとしたら、「すぐに決めなければならないこと」を10個挙げてみる(営業時間、メニュー、価格、人員配置、仕入れ先など具体的に)
2)それぞれについて「自分ならこう決める」と仮の答えを書いてみる
これをやるだけで、「自分はまだ何を知らないのか」「どこで迷うのか」が見えてきます。見えたギャップこそが、今後埋めていくべき経営者スキルの課題リストです。
